紅葉があまりに鮮やかなので、観光シーズンになるとそちらに気を取られがちですが、春に負けず秋にもたくさんの花が咲きます。特に七草粥として食べるということではないようです。秋の七草は万葉集巻八の秋雑歌(あきのぞうか)にある、以下の山上憶良氏の歌二首から。
- 「秋の野に咲きたる花を指折りてかき数ふれば七種の花」
- 「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝がほの花」
秋の七草は、萩(はぎ)、尾花(おばな)=芒(すすき、薄)、葛(くず)、撫子(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴(ふじばかま)、朝顔または桔梗(ききょう)になります。
また、昭和10年には、与謝野晶子氏などの提唱で新・秋の七草が選定されました。
新・秋の七草は、雁来紅(がんらいこう=葉鶏頭(はげいとう))、秋海棠(しゅうかいどう)、曼珠沙華(まんじゅしゃげ=彼岸花(ひがんばな)、赤まんま(犬蓼(いぬたで))、菊(きく)、白粉花(おしろいばな)、秋桜(こすもす)です。
萩(はぎ)
萩(はぎ)は、マメ科ハギ属の背の低い落葉低木です。秋の七草としては、ヤマハギ節のヤマハギかニシキハギ、マルバハギのようです。山萩(ヤマハギ)と錦萩(ニシキハギ)は古来から日本に生息しており、かつ、万葉集の頃の京都や奈良にも生息していた可能性が高く、秋の七草としては、これが指されるでしょう。萩は漢字ではなく、国字のようです。
尾花(おばな)
尾花(おばな)は、芒(すすき、薄)です。イネ科ススキ属ですね。茅(かや、萱)とも呼ばれるようです。茅葺き屋根の茅ですね。他に茅とよばれるものには、チガヤ、スゲなどで、細長い葉と茎を地上から立てるイネ科ばかりのようです。夏から秋にかけて茎の先端に十数本にわかれた花穂をつけるようです。秋になるとお花屋さんにも並びます。
ススキの別名は、尾花、茅、萱、男茅(おとこがや)、乱草(みだれぐさ)、振袖草(ふりそでぐさ)、露見草(つゆみぐさ)、旗薄(はたすすき)など、たくさんの別名があります。
葛(くず)
葛(くず)は、マメ科クズ属のつる性の多年草。根から葛粉や漢方薬が作られます。奈良に行くと葛粉がたくさん売っていますね。もちろん葛根湯の葛根は字のごとく葛の根です。葛の花にもイソフラボンが入っていて生薬として使われるようです。
もちろん葛花は秋に咲きます。穂状花序が立ち上がり、濃紺紫色の甘い芳香をもつ花を咲かせます。マメ科特有の蝶形花です。
撫子(なでしこ)
撫子(なでしこ)は、ナデシコ科ナデシコ属カワラナデシコです。蘧麦(きょばく、瞿麦(くばく))ともよぶようです。その他、撫子は、形見草(かたみぐさ)、日暮草(ひぐれぐさ)、懐草(なつかしぐさ)など多くの呼ばれ方があります。
ナデシコ科ナデシコ属のうち、河原撫子(カワラナデシコ)が最も一般的かつ秋の七草として、大和撫子(ヤマトナデシコ)と呼ばれます。
女郎花(おみなえし)
女郎花(おみなえし)は、オミナエシ科オミナエシ属 。敗醤(はいしょう)、チメグサなどとも呼ばれるようです。全草や花単体は生薬としても用いられるようです。解熱・解毒作用があるようです。黄色く細かい花が咲きます。
一般的には、「女郎花」ですが、読み方を「おみなえし」のみならず「おみなめし」「おみなべし」「じょろうばな」と読むなど、多様な呼ばれ方をします。
藤袴(ふじばかま)
藤袴(ふじばかま)は、キク科ヒヨドリバナ属の多年生。中国からの帰化植物のようですが、いまや絶滅危惧II類に分類されるほど数が減ってきているようです。淡い紫紅色の小さな花がつきます。
フジバカマは、生草の時は無香ですが、乾燥し生乾きになった時には桜餅の葉のようなクマリンの芳香を放ちます。
朝顔(あさがお)
朝顔(あさがお)は、万葉集における山上憶良の旋頭歌による「萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなへし) また藤袴 朝貌(あさがお)の花」より朝顔とされますが、桔梗(ききょう)とする説が有力のようで桔梗のようです。他にもムクゲとする説があるようです。
桔梗(ききょう)
キキョウ科の多年性。自生株はこちらも絶滅危惧II類に分類されるほど数が減少してきているようです。青紫の星型の花をつけます。
開花前、枝元にある蕾の状態の時は花びら同士が風船のようにつながっており、鐘状の蕾が5裂に裂けて青紫の星型の花を咲かせます。青紫色の花の色素はアントシアニン系で、酸で変色します。
木槿(むくげ)
木槿(ムクゲ)は、アオイ科フヨウ属の落葉低木。漢字から「もくげ」と呼ばれたりする他「ハチス」という別名があります。
新・秋の七草
昭和10年(1935)の秋、与謝野晶子氏などの提唱で、日々新聞が新・秋の七草を募集し、長谷川時雨氏、永井荷風氏、斉藤茂吉氏、高浜虚子氏、牧野富太郎氏、与謝野晶子氏、菊池寛氏の七名が、次のそれぞれ秋の花を指定して七種としたものです。
新選 秋の七草
- 雁来紅(ガンライコウ=葉鶏頭(ハゲイトウ)) 長谷川時雨
- 秋海棠(シュウカイドウ) 永井荷風
- 曼珠沙華(マンジュシャゲ=彼岸花(ヒガンバナ) 斉藤茂吉
- 赤まんま(犬蓼(イヌタデ)) 高浜虚子
- 菊(キク) 牧野富太郎
- 白粉花(オシロイバナ) 与謝野晶子
- 秋桜(コスモス) 菊池寛
(敬称略)
万葉集における秋の七草では、藤袴(フジバカマ)が、唯一の外来種でしたが、昭和初期の新・秋の七草の七種に選定された秋の花の全て種は外来種であり、国内原産種は一つも残らなくなりました。ハゲイトウは熱帯アジア原産、シュウカイドウ・ヒガンバナ・キク・イヌタデは中国原産、オシロイバナは南米原産、コスモスはメキシコ原産です。万葉集の秋の七草は、すべて野に自生している植物ばかりですが、昭和初期に選定された新選秋の七草は、野生状態のイヌタデ、および現状ではほとんど自生状態のヒガンバナを除き、他の5種は観賞用として栽培されている植物です。
その他 秋の七草
新・秋の七草と同時期、それ以降に選定された秋の七草です。テストなどでは、それぞれの七草を覚える必要があるのかも知れませんが、個人的な選定があっても、ひとり一人の中にそれぞれの秋の七草があっても、何の問題もありません。
佐藤春夫氏選定 秋の七草
- 烏瓜(カラスウリ)
- 鵯上戸(ヒヨドリジョウゴ)
- 犬蓼(イヌタデ) あかまんま
- 曼珠沙華(マンジュシャゲ=彼岸花(ヒガンバナ) かがり
- 釣鐘人参(ツリガネニンジン) 釣鐘草(つりがねそう) つりがね
- 野菊(ノギク) 嫁菜(ヨメナ)
- 水引(ミズヒキ)
昭和10年に与謝野晶子氏などの提唱で新・秋の七草が選定されましたが、これについて佐藤春夫氏は、「秋花七種」という随筆を昭和10年11月発行の文藝春秋に発表し、この随筆のなかで、佐藤氏の個人的選定秋の七草を選んでいます。
からすうり ひよどり上戸 あかまんま
かがり つりがね のぎく みずひき
きちんと「5 7 5 7 7」になっています。「かがり」は曼珠沙華のようです。
薬用秋の七草
薬用秋の七草として、朮(オケラ)、葛(クズ)、桔梗(キキョウ)、曼珠沙華(マンジュシャゲ)、竜胆(リンドウ)、大和鳥兜(ヤマトトリカブト)、三島柴胡(ミシマサイコ)が選定されたこともあるようです。
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