事務方の達人との思い出

特にそうなる必要はありませんが、いずれ起業する前提や社長になる前提で働いていると、様々なことが勉強になります。

学校にいる間はお金を払って勉強するという形になりますが、社会に出るとお金をもらって勉強をするという形で毎日を過ごすことができます。

世の中においても、曖昧で余白的に成り立っている事柄はたくさんあり、表面的な範囲や構造だけで捉えることはできません。

法律においても信義則や権利濫用、情状酌量という概念があるように、職場においても全てがガチガチに決まっているわけではありません。

ある程度の余白があって、余白の範囲でなされていることもよくあるという感じです。

ある時期から会社の飲み会には参加しないという人達が増えたと騒がれたことがありましたが、確かに任意参加の集まりには一切参加しないという同期なども多少はいました。

同期としては「どうせ仕事の話をされるのなら研修として給料をよこせ」位の感覚だったようです。

しかし、確かに任意参加であり義務でも何でも無いようなことですが、その場所に行けばいかなるところにも答えが載っていないような情報が手に入ったり、「義務として教える必要のないようなこと」を気軽な雰囲気の中教えてもらえる上に、結構な確率で費用は上司が出してくれたりします。

よほど嫌な相手とか、体調が悪いとか、それにも増して優先するようなことがあるのでない限り、行かない理由はないだろうとすら思っていましたが、人によって印象は千差万別のようでした。

そんな中、特に飲み会の席で教えてもらったわけではありませんが、自分の属する部署ではない事務方の部署の中間管理職の方に、事務方ならではの様々なことを教えてもらいました。

僕としてはその人に鍛え上げてもらったおかげで、今も書類の事務処理に憂いがなくなったというような思いがあります。

結局僕は退職して会社を作ってという形になったので、会社のローカルルールに関するものは直接的に知識が使えなくなったという点はあるものの、基礎的な処理の仕方や、関係法についてどのように対応していけばよいのかという基本的な思考法を学ぶことができました。

ここで、そんな事務方の達人さんのことをAさんと表現して、その方との思い出を書いていこうと思います。

Aさんに聞いてくれる?

「お金に関する系の仕事」にはよくありがちですが、書類の事務処理一つとっても適当では済まされない部分がよくあります。

せっかく仕上がったと思えば、書類に不備があり、それを修正しようと思うとお客さんのところに再度赴いて、お客さんに直接修正してもらうということをしなければならないということもよくあります。

哲学書ばかり読んでいたことに代表されるように、細かいことが気になる気質であり、また、顧客に迷惑をかけるのも嫌なので、なるべく不備無いようにという姿勢を持っていました。

そんな中、基礎的なやり方は自然に身についていくものの、どこかでイレギュラーケースが出てきます。

そうなると、同じ部署の人に聞いても「わからんなぁ。事務方に聞きに行ってこい」と言われたりしたので、ひとまず事務方の部署に出向いて同期に質問をしに行ったりしました。

すると「Aさんに聞いてくれる?」という言葉しか返してもらえません。

なるほど、Aさんという人ならばどのようなケースでもだいたい答えを知っている人なのだなという感じでした。

が、一方で同期の人に対しては「君も事務方なんだから、君が一度Aさんに聞きに行って教えてくれればいいのに。ここで勉強しておけば君の知識も増えるのに」ということを思いました。

だからその同期は出世しないだろうと思いました。

ということを思いましたが、別にその同期に出世して欲しいなどとは思わなかったので、僕はAさんのもとに行くことになりました。

「いずれ転属になるかもしれないし、そうでなくとも勉強になる。仮に転職したり起業しても、こうしたリアルな知識はどこかに役に立つだろう」

という感じで、結構難しいような話を聞きに行きました。

なんでも聞くところによると、実務の上では部長よりもすごくて、それどころかおそらく近隣エリアでは誰も右に出る者がいないほどのスキルを持った人だったようです。ただ、年齢的にまだ中間管理職だというだけで、いずれ最年少で部長クラスになるだろうと噂されている人でした。

「その質問ね。歴代十人目くらいかな。左端の下から3番目の書類取って」

という感じで、イレギュラーケースへの対応の方法を伝授してもらいました。

これぞプロ根性

その後も何度か「かなりややこしい案件」を自ら手を上げて引き受けてみました。

話がややこしいので同じ部署の人たちは、誰もやりたがらなかったという感じですが、僕としては、それまでの間学校で勉強してきたようなことの実践のような仕事で面白そうだったからです。

当然にそれをどうやって解決するかという点において事務の方々の力を借りることになります。

同期の聞きに行ってもどうせまた「Aさんに聞いてくれる?」ということを言われるのが目に見えていた僕は、直接Aさんに聞きに行きました。

「お、そのケースは初めて当たるね。あれでいけるかな…うーん。ちょっと待っててね」

といった感じで電話を手に取り、Aさんは片っ端から電話をかけだしました。

なんでも任意的なものになるようですが、「事務方ネットワーク」というものがあるようで、各支店の事務方のプロたちとのネットワークがあるようでした。それでも解決しない場合は、会社の顧問弁護士の方に聞くという流れのようでした。

大きな会社にありがちですが、基本的に話が難しくなると「投げる」ということがよくなされます。

その規模の小さい版が、同期の「Aさんに聞いてくれる?」であるという感じです。

その時抱えたかなりややこしい案件にしても、究極的には電話番号だけ渡して「本社に問い合わせろ」ということをやろうと思えばできる感じでした。

しかしAさんは、「私も勉強しておきたいから」といって、事務方ネットワークを使って自分で調べるということをしてくれました。

「そりゃこんな感じだったら、なんでも知ってるわこの人」

ということを思いました。

投げることもできるようなことを付き合ってみるということは一見不器用にも見えますが、オロオロするわけでもなく、「わからないことはどうすれば知ることができるのか?」ということを迷いなく実行している姿は、すごくスマートでカッコよく見えました。

物事の完璧さプロの定義

お、それに気づいた?

会社に求められていた資格取得の勉強をしている時、合法的な裏技を思いついたりしました。

で、多分いけるだろうということを思ったので、実際に実行してみると、若手の事務方に呼び出されました。

「あの、これなんでこんな契約形態になってんの?」

「いや、法律上その範囲なら大丈夫なはずですから」

「ややこしいことすんなよ」

と言われたりしましたが、奥からAさんがやってきて

「お、それに気づいた?」

と話に入ってきました。

そして、別に問題はないという点について若手の事務方に伝え、スマートに帰っていきました。

で、後で僕に話しかけてきて、

「私の知る限り、その方法知ってんの〇〇支店のBさんだけなんやけど、何かの集まりで聞いたん?それとも自分で気づいた?」

「勉強してる時に気づいて、いけるかなと思ってやってみました」

「歴代二人目やん」

と、そんな感じで声をかけてくれました。

その後、Aさんには本当にたくさんのことを教えてもらいました。

勤め人をやっていてよかったと思った思い出の一つです。

Category:company management & business 会社経営と商い

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