おぼろなる黒影の中に人ありて

同じような色をしていても、森の中に立っている同系色の電灯の柱などはすぐに見分けがつくように、自然な形や反射の仕方であるものとそうではないものとはすぐに見分けがつきます。

そんな感じで、だいたい普通で正常なものとそうではないものは、すぐに察知することができてしまったりします。そしてそれは概ね違和感として現れてきます。

そうした違和感を大切にしていると、人の状態というものもすぐに察知することができますし、それがどういった状態でどのように取り扱えばよいのかという点も見えてくるようになります。

しかしながら、自然なものと自然なものが同時にある場合、とりわけ保護色的なものであったり擬態等々によって身を隠したりしているという場合は、違和感がやってこなかったりもします。

20歳過ぎくらいの時のことですが、ある時大量のスズメが地面にいるのを見かけました。その後スズメたちが飛び立った瞬間、その中の一部が地面に居残っているので「変だなぁ」と思っていたら、残っていたのは松ぼっくりだったということがありました。

朧な闇夜に人影

そういえば夜道を散歩している時に、ふと朧な闇夜に人影が見え、なぜか立ち止まり僕がやって来ることを待ち伏せているかのようなことがありました。

車が通れないくらいの道幅であり、近づくとなれば至近距離になります。なぜ待ち構えるようにしているのかという点が不思議ではありましたが、単なる散歩であったためあまり気にせずそのまま進むことにしました。

通常考えられるパターンとしては、相手は犬の散歩中であり犬が飛び出さないようにと引っ張り気味で待機してくれていると言う感じが想定できます。しかし犬らしきものを連れている様子もありません。

まさかの闇討ちということも可能性はゼロではありません。

近づくにつれ少しだけ緊張感が走りましたが、すれ違いざまに相手が「すいません」と声をかけてきただけにとどまりました。

あまり気にしていないふりをしながらしばらく歩き、角を曲がるついでに振り返って当のその人を確認してみると、足を引き摺りながら歩いています。

きっとリハビリのための散歩中だったのでしょう。

その後何度かその人と道端で会うことがありました。

特に僕というわけでなくとも、やはり歩く人や自転車、バイクや車が通りがかる度に立ち止まり、といった感じでした。

これもまたやはり、歩くときはやや姿勢が歪み、足を引き摺る形で歩いていました。

その様子を見てあの時に感じた「リハビリのための散歩」という推測は確定的になりました。

おぼろなる黒影の中に人ありて。

苦難を乗り越えんとする様を見る。

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