営業の師匠(仮)との思い出について触れていきましょう。
基本的に全分野において師匠と呼べるような人はいませんが(習い事の先生や学校生活における恩師等々は一応います)、この営業の師匠(仮)については、短期間ですが営業について深く学び、影響を受けたと思っています。
師匠っぽい人。いや、師匠かもな
個性が強い僕ですので、師匠はいないのですが、それぞれある方面にのみ特化した「部分的な師匠」はたくさんいます。
こっちの準備ができた時に師があらわれる、という話をまったく信用していなかったのですが、考えてみればそうかもしれないな、なんていうことを思ったりしました。
会社の上層部の計らいにより、しばらくの間、日本一の男がぴったりついて指導してくださいました。
実力で言うと平社員の十倍。
強烈な個性をお持ちでした。
並外れた観察力と洞察力に、脱帽でした。
吉野家とすき家について
出会ってすぐの時です。
吉野家とすき家について―
「なんかすき家のほうがお得感があんねん。さて何ででしょう?」
「なんでですか?」
「肉の量が多く感じんねん。さてなぜでしょう?」
「たまねぎか何かを多く入れてるんですか?」
「残念。飯の量が少ないねん。だから相対的に肉が多く見える」
人の家の瓦を見て
一緒に外周りに出たときのことです。
「お、この瓦!これはなぁ、普通の瓦より1.5~3倍するんや。と、いうことは?」
「金持ちですか?」
「その可能性もあるなぁ。でも、家の規模から見てどうや?こんなとこに金かける必要あるんかいな」
「それもそうですね」
「と、いうことは?」
「見栄っ張りか、何も考えていないか…」
「お、ちゃんと学習能力あるやんけ。そや、見栄っ張りさんか、家建てるときに必要も無いもんを勝手に組み込まれて、それを知らずに坪単価を上げられてはる頭の弱い人ですわ」
分析しつくして戦略を練りに練りこめ
「相手を分析して分析しつくして、戦略を練りに練らんとどうすんねん!それでも3割くらいの確率で外れる。だから時間を惜しむのはわかる。でもザコはそれを惜しんで結果を出せんとザコのままなんやろ?お前は、天下のオレ様が教えたったんやから、二流三流になり下がんなよ。ま、教えたった言うても、今回は松竹梅の梅コースやけどな。あはは。早く竹コースにまで来てくださいな」
―
思えば、この人が僕についてくれたのは、半端に出来がよく、下手をすれば傲慢に「テング」になりそうな気質を見抜いた上での、上の策略だったのかもしれません。
―
「お前の頷き方はなぁ。人に失礼やぞ」
そんなことも言われました。
「ようやくお別れやなぁ。明日から顔見んでええと思うとせいせいしますわ」
そう言った後、
「しばらくしても底辺うろついとったら、腕立て100回やぞ」
そう言い残して、にこやかに帰られる姿を、深々と頭を下げて見送りました。
(2010年10月03日00:17)
続・師匠(仮)
日本一の男からの特訓を終え、しばらく。
教わったことを実践してみた。
オレはあの男を超えなければならない。
「そうか。こんなに簡単だったのか…」
―
知恵は掛け算してこそ爆発的に作用する。
知恵はひらめきとして突然に与えられるものだが、材料がいる。
それは、知識やタイムリーな情報であったり様々である。
―
「注意してや。ザコの戯言に影響されんなよぉ」
されるわけないさ。
また、別のある人に相談してみた。
「上の一部の人ですけどね、厄介みか何か知らないですけど、挨拶しても無視されるんですわ」
「そいつに好かれたい?どうでもいいねよ?でも、周りから見てどう?無視してる方か、それでも挨拶してる方か、さて、どっちが好ましいでしょうか?」
―
「僕、体育会系じゃないんですよねぇ」
「頷き方見たら一発でわかるわ。まあ、脳ミソ筋肉君の体育会系が多いから損かもな。でも、己が正しいと思うなら、口きかさんぐらいぶっちぎったれや」
「あはは。そうさせてもらいますよ」
(2010年10月12日00:46)
師匠(仮)を考える
「営業の世界には答えがある」と断言した師匠(仮)。
僕が教わったのは、そのほんの一部だったけど、今でも鮮明に記憶に残っている。
お金のこともたくさん教わった。
税や不動産についても教わった。
たった数週間だったけど、一緒に外回りできたことは本当に嬉しかった。
一緒に言った営業先で、相手とあまりに話が弾むので、所謂アプローチ、インタビューのうまさに、「後で褒めてもらえるかな?」と僕は誇らしげだったが、本題に入るとやたらと態度が急変したので、「どこかでミスでもしたかな」と、思いながらその場を去ると、
「オレも昔、あの手の単なる話好きに騙された」
と、彼は笑った。
「おまえみたいな頭に詰め込むタイプはな、何でも経験して失敗しないとダメ。だから失敗しまくれ」
と、ゲラゲラ笑いながら一緒に缶コーヒーを買いに行ったのを覚えている。
―
「遠くから見たら、同じ人か、親子みたい」と周りに言われたように、性格的に自分の20年後を想像させるような人だった。
その彼が、数ヶ月前、何かのミスで降格になったらしい。
正確にはミスではないらしい。
かつて国税庁に脱税幇助の疑いもかけられたが、のらりくらりと言い逃れた男である(実際には脱税には当たらないのだが、言い逃れたことを彼は自慢していた)。
彼を知る人たちは裏で彼を「知能犯」と呼んでいるらしい(確かにその要素はある)。
―
一緒にいた時に何度か気付いたことがある。
彼は自信に満ち溢れているが、時折どこか悲しそうだった。
彼はたった一度だけ、笑いながらふと漏らしたことがある。
「だんだん心を汚していったわ」
周りは気付いていなかった。
言葉は聞いていたものの、なぜかまではわからなかったと思う。
目が合ったとき、少しだけ救いを求めるような、そんな目をしていた。
「お前は気付いているんだろう?」
そう語るようだった。
―
一度でいいから、看板も役職も外して、師匠(仮)と話したい。
(2011年06月23日00:38)
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