小鬼田平子(コオニタビラコ)はキク科ヤブタビラコ属の越年草です。こちらはキク科の方の仏の座(ホトケノザ)です。タンポポ系ですね。
小鬼田平子(コオニタビラコ)の草丈は10cm程度で、ロゼット状に葉を地面から這うように生やします。葉の形状は羽状複葉です。水田、あぜ道等の湿地によく生えているようです。
学名:Lapsana apogonoides Maxim
春の七草における仏の座(ホトケノザ)
小鬼田平子(コオニタビラコ)は、春の七草として、「仏の座」として扱われます。が、この植物は、正式には、タビラコ(田平子)、コオニタビラコ(小鬼田平子)であり、ホトケノザという名はあだ名のようなものです。
タビラコ(田平子)には、オニタビラコ(鬼田平子)という植物もいますが、主に春の七草としては、この小鬼田平子(コオニタビラコ)を指します。
正式な仏の座(ホトケノザ)
正式な仏の座(ホトケノザ)は、別名三階草と呼ばれるシソ科のホトケノザです。
キク科とシソ科
小鬼田平子(コオニタビラコ)はキク科でタンポポのような形状ですが、本来の仏の座(ホトケノザ)は、シソ科であり、葉の形状が違うためすぐに見分けがつくと思います。
「紫」ではなく「黄色」こそが真実
春の七草の一つとして「ホトケノザ」の名を耳にするとき、多くの現代人が思い浮かべるのは、道端に咲く紫色の花(シソ科のホトケノザ)ではないでしょうか。しかし、それは植物学的には誤りであり、食卓においては危険な勘違いです。
七草粥に入れて食べる正統なホトケノザは、この黄色い花を咲かせる「コオニタビラコ」のことです。紫色のホトケノザは食用ではなく、独特の土臭さがあり、七草の優しい風味を壊してしまいます。本来の座るべき玉座を、派手な紫色の他人に奪われてしまった悲劇の植物。しかし、その控えめな黄色い花と、クセのない柔らかな葉の味わいこそが、胃腸を休めるという七草粥の本来の目的(薬膳としての機能)に合致した、真の「仏」の慈悲なのです。
咲かずに種を作る「沈黙」の決断
コオニタビラコを観察していると、蕾(つぼみ)のまま開かずに枯れていくものが多いことに気づきます。病気かと思われがちですが、これは「閉鎖花(へいさか)」と呼ばれる、極めて高度な生存戦略です。
寒い冬や、受粉してくれる虫が少ない環境下では、花を咲かせるエネルギーは浪費になりかねません。そこで彼らは、蕾の中で自家受粉を完了させ、花びらを開くことなく確実に種を作るという道を選びます。誰にも見られず、華やかさを捨ててでも、命をつなぐことだけを優先する。そのストイックな「引きこもり」の姿勢こそが、氷河期のような寒さの中でも絶滅しなかった彼らの強さの源泉です。
「鬼」の名を背負い、地に伏す
名前に「小鬼(コオニ)」とついていますが、その姿に鬼のような恐ろしさは微塵もありません。この名は、近縁種の大きな「オニタビラコ」に比べて小さい、という意味に過ぎません。むしろ注目すべきは「タビラコ(田平子)」という名前です。
冬の田んぼを見てください。彼らは冷たい風を避けるために、葉を地面にぴったりと張り付かせて放射状に広げています。これを「ロゼット」と呼びますが、その姿が「田んぼに平たく張り付いている子」に見えることから名付けられました。地面の地熱を逃さず、太陽の光を最大限に受け止めるための、天然のソーラーパネル兼ブランケット。鬼どころか、自然の理(ことわり)に最も素直に従う、賢明な姿がそこにあります。
水田という「仮の宿」の住人
コオニタビラコは、湿り気のある土壌、特に「冬の田んぼ」を愛します。彼らのライフサイクルは、日本の稲作文化と密接にリンクしています。
稲が刈り取られた後の湿った土で発芽し、春に花を咲かせ、田植えの準備で土が掘り返される前には種を残して姿を消す。つまり、彼らは農家が田んぼを使わないオフシーズンだけを狙って入居する、短期契約の「冬の借家人」なのです。現代においてコオニタビラコが減少しているのは、乾いた冬の田んぼ(乾田化)が増え、彼らの愛した湿った仮宿が減ってしまったことが大きな要因です。七草粥の椀に浮かぶその緑は、失われゆく日本の湿地環境の記憶そのものなのかもしれません。
オニタビラコ
小鬼田平子(コオニタビラコ)の親戚として、キク科オニタビラコ属の越年草「オニタビラコ」がいますが、一応属が異なっているため別種です。
学名:Youngia japonica
オニタビラコには、アカオニとアオオニの二つの系統があります。アオオニタビラコは都会型オニタビラコと言われ、葉は青を含んだ深緑で光沢があり、花茎も黒くて数本出るようです。
「仏」を追い越した「鬼」の繁栄
春の七草である「コオニタビラコ(仏の座)」が、湿った田んぼの減少とともに姿を消しつつあるのに対し、この「オニタビラコ」は、都市のコンクリートジャングルで爆発的に勢力を拡大しています。なぜでしょうか。
それは、彼らが「乾燥」という現代の都市環境に適応したからです。名前に「鬼」とついているのは、単にコオニタビラコより「大きい」という意味で付けられたものですが、今となってはその生命力の強靭さこそが「鬼」の名にふさわしいと感じさせます。湿地を必要とする繊細な「仏」が生きにくい現代において、乾いたアスファルトの隙間でも平気で根を張る図太い「鬼」が、皮肉にも私たちの身近な隣人として生き残ったのです。
タンポポと間違える「眼」を正す
道端で黄色い花を見て「タンポポだ」と思っているものの多くが、実はこのオニタビラコであるケースが多々あります。プロフェッショナルとして、その違いを明確にしておきましょう。
決定的な違いは「茎」にあります。タンポポの茎は地面から一本だけ伸びて枝分かれしませんが、オニタビラコの茎はひょろりと長く伸び、空中でいくつにも枝分かれをして、複数の小さな花を咲かせます。また、タンポポにはない「茎につく葉」があるのも特徴です。地面に張り付くだけでなく、立体的に空間を利用して種をばら撒こうとするその立ち姿は、タンポポよりもずっと狡猾で、戦略的です。
捨てているのは「野菜」かもしれない
「鬼」という名と雑草というレッテルに惑わされ、多くの人が見向きもしませんが、実はオニタビラコは、七草のコオニタビラコと同様、あるいはそれ以上に美味しい「食材」です。
若い葉や茎は柔らかく、アクも少ないため、さっと茹でてお浸しにしたり、天ぷらにしたりすると、ほろ苦い春の味覚を楽しむことができます。かつて救荒植物(きゅうこうしょくぶつ)として飢えを凌いだ歴史もありますが、現代の飽食の時代において、庭の雑草を摘んで食べるという行為こそが、最も贅沢で野趣あふれる「美食」と言えるのかもしれません。除草剤のかかっていない株を見つけたら、それは駆除対象ではなく、今夜の副菜候補として見るべきです。
傷口から流れる「白い警告」
オニタビラコの茎や葉をちぎると、切り口から真っ白な乳液が滲み出してきます。これはキク科の植物によく見られる特徴ですが、単なる水分ではありません。
この白い液体には、セスキテルペンラクトンなどの苦味成分やポリフェノールが含まれており、虫たちに対して「私は苦いぞ」「美味しくないぞ」と警告する化学的な防御システムです。私たちが食べた時に感じるあの独特の苦味は、彼らが自身の身を守るために体内に巡らせたバリアの味なのです。手に付くと少しベタつき、黒ずんで落ちにくくなるこの液は、彼らの「生きたい」という執念の現れでもあります。
キク科
- キク科キク属 菊(キク)
- キク科キク属 嵯峨菊
- キク科ガーベラ属 ガーベラ
- キク科コスモス属 秋桜(コスモス)
- キク科ヒヨドリバナ属 藤袴(ふじばかま)
- キク科ムカシヨモギ属 姫女菀(ひめじょおん)
- キク科ハハコグサ属 母子草(ハハコグサ)御形(おぎょう)
- キク科アザミ属 野薊(のあざみ)
- キク科オケラ属 朮(オケラ)白朮(ビャクジュツ)
- キク科モクシュンギク属 マーガレット
- キク科シカギク属(カミツレ属、マトリカリア属) ジャーマンカモミール(カモマイル)
- キク科ローダンセ属 花簪(はなかんざし)
- キク科ルドベキア属(オオハンゴンソウ属) ルドベキア・ヒルタ 粗毛反魂草(アラゲハンゴンソウ)
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