ローズマリー

ローズマリー

ローズマリー(rosemary)は、シソ科マンネンロウ属の耐寒性多年草(常緑性低木)です。這性(匍匐性)と直立性(立性)に分かれており、這性(匍匐性)のものは40cm程度、直立性(立性)のものは1m以上になります。葉の表は濃い緑色で、裏は薄い緑色の松葉状の艶があります。

ローズマリー 這性(匍匐性)と直立性(立性)

ローズマリー 這性(匍匐性)と直立性(立性)

左が直立性(立性)で右が這性(匍匐性)です。

ローズマリー

ローズマリー

料理に幅広く使われるハーブとして有名な他、エッセンシャルオイルは、香水やシャンプー、ヘアトニックに利用されます。駆風作用や酸化防止作用があり、なお、和名は迷迭香(マンネンロウ)です。

ローズマリーの花

ローズマリー 花

ローズマリー 花

開花時期は一般的に2月~5月。薄紫色の小さな花をたくさんつけます。この時1月でしたが咲き始めていました。

生育環境と挿し木

ローズマリー 匍匐性

ローズマリー 匍匐性

生育環境としては、日当たりのよい、水はけのよい砂質の土を好みます。挿し木で増やすことができますが、木質化した古い枝よりも若枝や、やわらかい枝の先端を利用するほうが根付きやすいようです。用いる枝の長さは10センチ程度で、挿し木のタイミングは3~9月ごろでうまく行けば2週間ほどで根付くようです。

ローズマリー 立性

ローズマリー 立性

ローズマリーは耐寒性ですが、枝が折れやすいため、積雪には注意したほうがよく、雪が降っている間は、枝を軽めに束ねることで対処できるようです。挿し木で増やす場合などにおいても、まだ生育途中の場合は室内で冬越し春に外に出す方が良いでしょう。なお、植え替え時期に先端を摘みとると、新芽が伸びて茂みに育つようです。

ローズマリーの品種

立性には寒さに強く薄青色の花をつけ葉は薄緑色のミス・ジェスプス・アップライト(Miss Jessup’S Upright)、地中海沿岸原産で寒さにやや弱いホワイトローズマリー(White Rosemary)、アップライトブルー(Upright Blue)、ピンクローズマリー(Pink Rosemary)、イタリアのトスカナ地方原産のトスカナブルー(Tuscan Blue)などの品種があります。また、匍匐性でさらに寒さに弱いプロストレイト・ローズマリー(Prostrate Rosemary)といった品種があります。

学名:Rosmarinus officinalis

「海の雫」が意味する強靭さ

ローズマリーの学名 Rosmarinus は、ラテン語の「Ros(雫)」と「Marinus(海の)」を組み合わせた言葉で、「海の雫」を意味します。

この名は、地中海の断崖絶壁で、波しぶきを浴びながら青い花を咲かせる姿に由来しています。ここから分かるのは、この植物が持つ驚異的な「耐塩性」と「乾燥への耐性」です。塩風が吹き荒れ、真水が乏しい過酷な環境こそが彼らの故郷です。私たちが庭で水をやりすぎて枯らしてしまうのは、彼らのこの孤高の魂、つまり「乾きと厳しさを愛する性質」を見誤っているからに他なりません。

香りを使い分ける「ケモタイプ」の視点

プロフェッショナルは、ローズマリーを一括りにしません。「ケモタイプ(化学種)」という概念で使い分けます。同じローズマリーでも、育つ環境によって主成分が劇的に異なるからです。

例えば、樟脳(しょうのう)の香りが強く、筋肉痛や防虫に役立つ「カンファー・タイプ」。ユーカリのような透き通る香りで、呼吸器系に作用する「シネオール・タイプ」。そして、細胞の再生を促し、スキンケアに特化した「ベルベノン・タイプ」。自分が手にしているローズマリーがどのタイプなのかを知ることは、単なる香り付けを超えて、植物の化学的な力を正確に引き出すための第一歩です。

70歳の女王が若返った「ハンガリーウォーター」

中世ヨーロッパにおいて、ローズマリーは魔法の植物でした。最も有名な伝説は「ハンガリーウォーター(王妃の水)」でしょう。

14世紀、手足の痛みに悩む70歳を超えたハンガリー王妃エリザベートが、ローズマリーをアルコールに漬け込んだチンキを使用したところ、みるみる若返り、隣国ポーランドの若き王子に求婚されたという逸話です。これは世界最古のアルコールベースの香水とも言われています。現代の科学においても、ローズマリーの抗酸化作用はトップクラスであり、「若返り」という言葉はあながち迷信とは言い切れません。

肉を「時間」から守る科学

羊肉や豚肉のローストにローズマリーを添えるのは、単に臭みを消すためだけではありません。そこには「カルノシン酸」や「ロスマリン酸」という強力な抗酸化成分の働きが関与しています。

これらの成分は、肉の脂質が酸化して劣化するのを防ぐ「保存料」としての役割を果たします。冷蔵庫のない時代、ローズマリーは肉を長持ちさせるための必需品でした。美味しくするためだけでなく、安全に食べるためのバリアとして機能する。その葉には、人類が腐敗という自然の摂理に抗(あらが)ってきた歴史が詰まっています。

「木」になろうとする意志

ハーブとして扱われますが、ローズマリーの本質は「樹木」です。年を経るごとに茎は木質化し、ゴツゴツとした幹のようになっていきます。

多くのガーデナーがここで悩みます。下葉が枯れ、形が乱れてくるからです。しかし、この木質化こそがローズマリーの生きた証です。美しい樹形を保つためには、梅雨入り前などに思い切った剪定(せんてい)が必要です。彼らは切られることに慣れています。むしろ、ハサミを入れることで新陳代謝が促され、より青々とした若い枝を吹くようになります。厳しく接することが、彼らの若さを保つ秘訣なのです。

這うか、立つか。造形の選択

庭のデザインにおいて、ローズマリーほど建築的な植物はありません。大きく分けて、空に向かって直立する「立性(たちせい)」と、地面を這うように広がる「匍匐性(ほふくせい/クリーピング)」があります。

立性は生垣やシンボルツリーとして空間を仕切り、匍匐性は石垣の上から垂らして滝のような景観を作ることができます。「マリンブルー」で空を目指すか、「プロストラータス」で重力に身を任せるか。どの品種を選ぶかは、その空間にどのような「線の動き」を与えたいかという、芸術的な選択でもあります。

記憶の彼方へ

シェイクスピアの『ハムレット』に登場するオフィーリアは、「これはローズマリー、記憶のために(There’s rosemary, that’s for remembrance)」と語ります。

古代ギリシャの学生が記憶力を高めるために枝を髪に編み込んだように、この香りは脳の海馬を刺激し、薄れゆく記憶を鮮明に繋ぎ止める力があると言われています。現代の研究でも、認知機能への影響が注目されています。庭に植えた一株のローズマリーは、過去と現在、そして未来の私自身の記憶を繋ぐ、香りのアンカー(錨)となってくれるのかもしれません。

シソ科

Category:植物

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