
順序効果(order effect)とは、広義には順序の違いや時間差によって表れる順応の過程や順向抑制、逆向抑制などの現象を意味する。当たり前のことだが、同一の被験者が複数の実験的操作を受けるときにおいて、同一の質問であっても質問の順序によって応答に相違があったり、順序によって練習、順応、疲労が生じたりして実験自体への心的飽和が起きたりすることある。
その他、同一の部位に同一の刺激が連続して与えられるとき後の刺激の効果が減少したり、刺激の時間的な相互作用が起こることがある。こうした形で順序によって反応の表れ方が変化してしまうことを順序効果という。
示す順序によって反応の表れ方が変化する
同じ内容のものを順序を入れ替えることで飽きに対処するという感じで、経済社会において店舗レイアウトや商品陳列を変える試みがなされるのもその一つだろう。商品の並べ方、消費者が目線を送る順序を変え、配列を変えたりすると売上が変わるということはよくある現象である。
示す順番によって印象が異なってしまうという意味での順序もあれば、複数回の実験において慣れてくる、飽きてくるといった形で順序によって結果が異なってくるというものも順序効果ということになる。
仮に同時に示したとしても注意が向くもの、集中するものはだいたい1つであるため自ずと順序がつく。そうした順序によって、順応に差が出ることが順序効果である。また、同じ実験を複数回繰り返すことによって「前回の測定が今回の測定に影響する」という履歴効果というものもある。
順序効果の学術的背景と記憶プロセスの二重性
人間の記憶は、入力された情報を時系列順に均等に記録するビデオテープのような媒体ではない。情報の提示順序そのものが、その定着率や印象形成に決定的なバイアスを与えるという事実は、認知心理学における最も堅牢な発見の一つである。
系列位置曲線と二つの記憶貯蔵庫モデル
19世紀末のエビングハウスの研究に端を発し、後にアトキンソンとシフリンによって理論化された「系列位置効果」は、初頭効果と親近効果という二つの異なる現象の複合体として説明される。リストの最初に提示された項目は長期記憶(LTM)への転送リハーサルが十分に行われるため定着しやすく、最後に提示された項目は短期記憶(STM)のバッファに残存しているため即座に再生されやすい。
この結果として描かれる「U字型の記憶曲線」は、人間の記憶システムが決して単一のプロセスではなく、性質の異なる複数の貯蔵庫(ストア)によって構成されていることを示す強力な証拠となった。中間部の情報が脱落しやすいのは、長期記憶への転送も間に合わず、短期記憶からも押し出されてしまう「記憶の空白地帯」に位置するためである。
干渉理論による忘却メカニズムの解明
なぜリストの中間部分はこれほどまでに脆弱なのか。現代の認知心理学では、これを「順向干渉」と「逆向干渉」の相互作用によって説明している。順向干渉は、先に覚えた情報が後の情報の学習を妨げる現象であり、逆向干渉は、後から入ってきた情報が前の情報の保持を阻害する現象である。
系列の中間項目は、先行する項目からの順向干渉と、後続する項目からの逆向干渉の両方を同時に受けるという、最も過酷な条件下に置かれている。最新の研究では、この干渉を打破するためには、中間項目の意味的・視覚的な特異性を高める「フォン・レストルフ効果(孤立効果)」の活用が有効であることが示されている。
神経科学が実証する脳内回路の乖離
近年のfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた神経科学的研究は、初頭効果と親近効果がそれぞれ全く異なる脳領域によって支えられていることを物理的に証明した。初頭効果(長期記憶化)には、情報の固定化を司る海馬および海馬傍回の活性化が強く関与していることが確認されている。
一方で、親近効果(短期記憶保持)に関与しているのは、音韻ループやワーキングメモリを司る左下頭頂小葉や前頭前野の一部である。この「二重乖離」の発見は、記憶障害の患者において、長期記憶は失われているが短期記憶は保たれている(あるいはその逆)という臨床的な症例を裏付ける神経学的な基盤となっている。
デジタル・アーキテクチャにおける順序の戦略
現代のウェブデザインやマーケティングにおいて、順序効果は情報の優先順位を決定するアルゴリズムの根幹を成している。ユーザーの注意資源が極めて限られたデジタル環境では、ナビゲーションメニューの「最初」と「最後」に最も重要な要素を配置することが、行動経済学的に理に適った設計となる。
また、意思決定における「ピーク・エンドの法則」とも関連し、ユーザー体験の最後(親近効果)がいかに感情的な評価を左右するかが、UXリサーチの主要なテーマとなっている。膨大な情報ストリームの中で、いかにして「中だるみ」による情報の埋没を防ぎ、順序という文脈を制御するか。それは現代のインターフェース設計者が直面する高度な知的ゲームである。
最終更新日:
