
クレスピ効果とは、報酬の量の急変によって行動が変化する現象で、報酬の量が減少した場合、やる気が無くなり行動が遅くなるという効果。単純には報酬の量は行動に影響を及ぼすという効果である。これは1940年代にクレスピ氏によって発見されたことから「クレスピ効果」と呼ばれる。
「報酬の量が減ればやる気が無くなる」といった形で報酬量の変化と行動の変化を示したのがクレスピ効果であるが、この「報酬」とは、動物ならば食物、人間ならばそれに加えて金銭的報酬といったものがそれにあたる。
クレスピ効果の実験
このクレスピ効果は、「ネズミに与える報酬(ネズミなので食べ物)を急に減らすと走る速度が低下した」という実験から導き出された。「給料を下げると従業員のやる気が無くなる」ということが本能レベルでも確認されたということになる。
クレスピ効果の実験における「それまでに与えていた食物の量を減少させられた群は、一定量を与えられている群に比較して食物への走行速度が急激に低下した」という結果から、報酬の量に行動が変化するということが示され、「動機づけ過程」において外的刺激の機能を重視する「誘因動機づけ」の理論を展開する上で貴重なデータとなった。
アルバイトの人が急に意味なく時給を下げられた場合は確実にやる気を無くすだろう。また会社が大赤字というわけでもなく、黒字で株主には配当も出されている中、意味なく基本給が下がった場合大体の人はやる気を無くす。それは動物レベルでも同じなのだ(不当な賃下げへの対抗)。
クレスピ効果の学術的背景と期待値による行動変容
行動に対する報酬の価値は、その絶対量によってのみ決まるのではない。過去の経験に基づく期待値との「差分」が、個体の意欲にいかに劇的な影響を与えるかを解明することは、動機付け理論の核心に触れる作業である。
クレスピによる報酬量変化の実験的証明
クレスピ効果は、1942年に心理学者レオ・クレスピによって報告された。彼はネズミを用いた走行実験において、与える報酬(餌)の量を途中で増減させることで、走行速度がどのように変化するかを観察した。その結果、報酬を増やした群は最初から多量の報酬を得ていた群よりも速く走り、逆に減らした群は最初から少量の報酬を得ていた群よりも極端に遅くなるという現象を見出した。
この実験は、学習の成果が単に「習慣の強さ」だけで決まるのではなく、その時々の「誘因動機付け」によって動的に調整されることを示している。過去の報酬水準という比較対象が存在することで、現在の報酬の主観的価値が相対化されるのである。
負の対比効果と感情的コントラスト
クレスピ効果のうち、報酬の減少によって意欲が著しく低下する現象は「負の対比効果(Negative Contrast Effect)」と呼ばれる。これは単なる失望を超え、個体に「不当な扱いを受けている」という一種の欲求不満状態を引き起こす。
現代の認知心理学では、この現象を期待値の裏切りによる「感情的コントラスト」として分析している。人間社会においても、以前より条件が悪化した際に生じる強い抵抗感や意欲の減退は、この負の対比効果によって説明が可能である。一度上昇した期待の基準を下げることは、心理的に多大なコストを伴う適応プロセスといえる。
神経科学が捉える予測誤差と報酬系回路
近年の神経科学的研究によれば、クレスピ効果の背後には、中脳辺縁系のドパミンニューロンによる「報酬予測誤差(Reward Prediction Error)」の処理が深く関与していることが判明している。脳は報酬そのものよりも、「期待していた以上の報酬」が得られた際に強く活性化する。
逆に、期待を下回る報酬しか得られない場合、ドパミンニューロンの発火は抑制され、これが意欲の急激な減退として現れる。クレスピ効果は、脳が常に過去の統計データを参照し、現在の環境が「改善しているか、改悪しているか」を極めて鋭敏にモニタリングしていることの証左である。
組織マネジメントと動機付けの動的設計
現代の組織心理学において、クレスピ効果の知見は報酬制度の設計に不可欠な視点を提供している。一定の報酬を維持し続けるだけでは、時間の経過とともにそれが「当然の基準」となり、誘因としての効力を失っていく。
最新の研究では、いかにして期待値を管理し、持続的な動機付けを維持するかが焦点となっている。単なる物質的報酬だけでなく、フィードバックの質や役割の変化を「正の対比」として戦略的に組み込むことが求められている。物理的な対価を超えた、人間の知覚的な価値評価のメカニズムを理解することこそが、高度な適応を支援するポイントとなる。
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