桔梗(ききょう)は、キキョウ科キキョウ属の多年性草本。自生株はこちらも絶滅危惧II類に分類されるほど数が減少してきているようです。青紫の星型の花をつけます。
「万葉集」山上憶良の旋頭歌の「朝貌(朝顔)」は、桔梗(ききょう)とする説が有力のようでこの桔梗のようです。ですので、桔梗(ききょう)は秋の七草のひとつです。
朝顔は中国から持ち込まれた植物であり、奈良時代末期の万葉集成立当時は日本に生息していなかったであろうという推測(種の持ち込みが奈良時代末期もしくは、平安時代)に加え、その後の平安時代に編集された漢和辞典「新撰字鏡」において、桔梗の和名として阿佐加保(あさかほ)という記述が見られるというのが有力説を支える根拠となっています。
桔梗(キキョウ)は、日当たりの良い山野の乾いた草地に自生しています。草丈は40~1m。花期は6~9月。東アジア固有の一属一種の植物です。茎は緑色で直立し、上部で分枝します。根は太く多肉質で、黄白色をしており、薬用(サポニンを含む「桔梗根」)とされます。主要成分はサポニンのプラチコジン(platycodin)などです。葉は、広披針形(こうひしんけい)で互生、長卵形でふちには鋸歯(ぎょし)があります。裏面は白色ががっていて、茎や葉は、傷をつけると白い乳液を出します。
桔梗(ききょう)の花
開花前、枝元にある蕾の状態の時は花びら同士が風船のようにつながっており、徐々に緑から青紫に変わった頃に、鐘状の蕾が5裂に裂けて青紫の星型の花を咲かせます。雄蕊・雌蕊は5つ、花弁は5枚です。
雌雄同花ですが雄性先熟で、雄蕊から花粉が出つつ雄蕊の柱頭が閉じた状態の頃を雄花期、花粉が失活して柱頭が開いて他の花の花粉を待ち受ける状態の雌花期があります。青紫色の花の色素はアントシアニン系で、酸で変色します。
安倍晴明の五芒星を桔梗印といいますね。晴明神社は堀川一条ですが、安倍晴明の墓は嵐山にあります。余談ですが、同級生には晴明神社で名前を付けられた人が異常に多いような気がしますが、僕は両親のオリジナルです。
なお、名前的に関連性がありそうなトルコギキョウ(トルコキキョウ)は、リンドウ目リンドウ科ユーストマ属(エウストマ属)であり、桔梗(ききょう)は、キキョウ目キキョウ科キキョウ属なので別種です。ちなみに「トルコ桔梗」という名でありながら、トルコは関係なく北米~メキシコ原産で、単に「トルコ人のターバンと開花初期の花の形状が似ているから」という理由でその名がついているだけということのようです。
学名:Platycodon grandiflorum
紙風船が弾ける瞬間の「音」
英名で「Balloon flower(バルーン・フラワー)」と呼ばれる通り、キキョウの蕾(つぼみ)は、まるで折り紙の紙風船のように膨らみます。
花弁同士が縫い合わされたかのようにピッタリと閉じ、中の空気を逃さないその構造。子供の頃、この蕾を指でつまんで「ポン」と音を立てて割った記憶がある方もいるかもしれません。この密閉された空間の中で、雄しべと雌しべは外気や雨から守られながら、静かに成熟の時を待っています。開花とは、内側から溢れ出る成長のエネルギーが、外殻の限界を突破する物理的な破裂現象でもあります。静寂の中に秘められた、爆発的な生命力がそこにあります。
「すれ違い」を選ぶ生存戦略
キキョウの花をじっくり観察すると、時期によって真ん中の様子が全く違うことに気づくはずです。これは「雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)」という、自家受粉を避けるための巧妙なシステムです。
花が開いた直後、まずは「雄しべ」が成熟して花粉を出します。この時、中央にある「雌しべ」はまだ固く閉じており、自分の花粉を受け取ることはありません。やがて雄しべが枯れてしおれると、今度は雌しべの先端が星型に開き、他の花からの花粉を待ち受けます。
自分自身の花粉で安易に種を作ることを拒否し、時間差を作ることで、必ず「他者」との出会いを経て命を繋ごうとする。この意図的なすれ違いは、遺伝子の多様性を保つための、植物なりの孤独で切実な知恵なのです。
美しい花の下に眠る「去痰」の苦味
可憐な紫の花に目を奪われがちですが、キキョウの真価はその「根」にあります。太く白い根は「桔梗根(キキョウコン)」と呼ばれる重要な生薬です。
主成分のサポニンには、気道の粘液分泌を促し、痰(たん)を切れやすくする強力な作用があります。有名な「龍角散」などののど薬や、漢方の「桔梗湯」に配合されているのがこれです。美しい花を愛でるだけでなく、その根は人々の呼吸を楽にし、苦しみを和らげてきました。地上では清涼な美しさを振りまき、地下では泥にまみれて苦い良薬を育てる。その二面性にこそ、この植物の深みがあります。
「水色桔梗」が背負った運命
歴史的な視点で見ると、キキョウは「明智光秀」の家紋としても知られています。土岐氏の流れを汲む水色桔梗(みずいろききょう)紋です。
本能寺の変を起こした光秀の家紋であることから、かつては「裏切りの花」という不名誉なレッテルを貼られたこともありました。しかし、戦場に揺れる桔梗の紋は、潔さと凛とした精神性の象徴でもあったはずです。夏から秋にかけて、まっすぐに茎を伸ばし、媚びることなく空を向いて咲くその姿は、謀反人という評価を超えて、自らの信義を貫こうとした武将の生き様と重なって見えます。
園芸店にはない「絶滅危惧」の現実
園芸店やホームセンターに行けば、キキョウの苗は簡単に手に入ります。しかし、それは人間が改良し、増やした園芸品種に過ぎません。
日本古来の「野生のキキョウ」は、実は環境省のレッドリストで「絶滅危惧II類(VU)」に指定されている希少な植物です。草地開発や里山の荒廃により、自然の中で自生する姿を見ることは極めて困難になっています。私たちが日常的に目にしているのは、安全な温室で育ったコピーであり、本来の野性を失った姿かもしれません。もし旅先で、人の手が入っていない野原に咲くキキョウを見かけたなら、それは奇跡に近い出会いです。どうか摘んだりせず、その場の風景として心に焼き付けてください。
「二度咲き」させるハサミの魔法
キキョウを長く楽しむために「切り戻し」というテクニックを使います。
通常、6月から7月に一度目の花が咲き終わります。この時、そのままにせず、草丈の半分くらいの位置で思い切ってバッサリと切り落とします。すると、切った場所から新しい脇芽が伸び出し、秋(9月〜10月)にもう一度、花を咲かせてくれます。これを「二度咲き」と言います。最初の開花で消耗した体力を温存し、秋の七草としての本番に備えさせる。ハサミを入れる勇気が、秋の庭に再び紫の彩りを呼び込む鍵となります。
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