痩せ細った体

対象が人であれ動物であれ、かつてがっしりして元気だった者が痩せ細っていく姿を見るのは辛いものがあります。痩せ細った体は、ただそれだけで、それを見る者に何かしらの侘しさをもたらしたりします。

養子のうさぎも、寝たきり時には日に日に体重が低下していき、一番がっしりしていた頃と比較して、最後は体重が半分以下になっていました。

そうした痩せ細った体を見る辛さは、基本的には記憶からやってきます。一種の愛別離苦ということになりましょう。

元気でやんちゃな時の姿を知っているからこそ、痩せ細った体を見た時に侘しさがやってきてしまうという側面があります。

また、単純に「具合が悪そう」とか「しんどいだろうなぁ」とか「どのような環境にいたのだろう」いう推測からの苦しみもあります。ただ、それらは慈悲につながるので、ある種共感することができるということは「能力」でもあります。

おい、しっかりしてくれよ

どこかで触れていたような気もしますが、痩せ細った体を見て最初に哀愁を感じたのは、かつて、町内にいた頑固オヤジです。

織物の職人であり零細企業の社長ですが、僕が小学生の頃、ボールが会社敷地内の中に入ったりして取りに行ったときによく怒鳴られていました。

で、彼は怒鳴りつつ、そこの社長夫人が「まあまあ」と、なだめにくるというような感じです。漫画に登場するままの如くの頑固オヤジ系です。

そんな彼が、晩年癌に侵され、日に日に痩せ細った体になっていきました。

「死ぬまで現役」ということで、まだ職人仕事は続けているようでしたが、ある時社長夫人が僕の家のインターホンを鳴らしに来ました。

「ちょっとだけ手伝って欲しい」

という感じだったので、とりあえず工場の方まで行きました。

ガリガリに痩せ細った頑固オヤジが、申し訳無さそうに「これだけお願いできひんか?」と言ってきました。

何やら織機のナットらしき物をスパナで締めて欲しいということのようでした。

で、簡単なことなのですぐさま応じ、早速スパナで締めてみたのですが、すごく軽く、あまりにも楽に締めることができました。

「この程度の力すら出ないのか」

ということが、すごく侘びしく感じました。

他人事といえば他人事ですが老いと病に対するリアルが垣間見れた気がして、「いずれ自分もそうなる」ということも感じたりしました。

「おおお、すまんなぁ。ありがとう」

あの時にかけられた感謝の言葉は、様々な思いを僕に与えました。

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