些細な力の無限連鎖

もう随分と前のことですが、弱体化した支店を立て直す敏腕管理者の方がいました。僕が実際に目の当たりにした良きリーダーの一人です。

彼は今でも僕の中での「理想のリーダー像のモデル」として重要な位置にいます。

彼が見せた「些細な力の無限連鎖」という奇跡のような復活劇について振り返ってみようと思います。

凄腕の支店長がやってきた

ある時、売上が極端に低迷する支店に凄腕の支店長がやってきました。

従業員たちの心は諦めかつ退廃的になっていて「サボったもん勝ち」という空気すら流れていました。

営業成績で言えば、全国でも下から数えたほうが早いと言う感じで、まあ絶望的な支店といった感じです。

新しい支店長がやってきた際、「支店長が変わったからといってそれがどうした」という感じの空気が流れていました。

「頼むから仕事増やさないでくれよ」

と言う程度でした。

といってもすでにサボり癖がついていたため、叱られようが平気な人たちばかりです。

説教など右から左の人ばかりと言う感じです。

僕も特に意識することなく、新しい支店長がやってきたということくらいしか知らないような感じでした。

「またくだらんような改善案みたいなのを試されたりするのはゴメンだなぁ」

と言う程度でした。

支店長が動き出した

といっても、「何もやらないはずがない」と思っていながら、暫くの間は何も変化がありませんでした。

一応噂では「営業成績が低迷する支店に派遣される人」ということだったので、何かが起こっていくのだろうとは思っていたのですが、特に変化がありません。

いつも通りの日々が続きました。

そしてある日、昼一番に集合がかかりました。

「お、何かご演説が始まるのかな」

と思っていましたが、何やら表彰式的なもののようでした。

前に並んでいるのは、営業部のようなところと全然関係ないパート従業員の方々です。

「何ですかこれは?」

と思っていたのですが、

「知人をご紹介くださったりして、営業成績にご貢献いただきました。

微々たるものかもしれませんが、営業部の皆さん、盛大なる拍手を!」

「まさか茶番劇か?」とすら思いましたが、あとでそのパート従業員の方々に話を聞きに行くと、全然関係ない部署を始め、ビルの清掃業者さん自販機の飲み物を補充する出入り業者さんまで、「支店全体でがんばりましょう」などと言いながら支店長が自ら頭を下げてお願いに回っているというのです。

「支店長に頭下げられたらね―」

なんて言いながら、そのうちの数人が、顧客になりそうな知人を紹介したりしたということのようでした。

無限連鎖の始まり

それから無限連鎖が始まりました。

表彰されたパート従業員の方々は、当然にそうした表彰があったことをすぐに同僚の人たちに言いふらします。

「たまたまうちの知り合いならちょうどいいかなぁって思ったからちょっとお話してみただけなのよ」

という前フリ付きでです。

後は、パート従業員の方々の口コミで一気に広がります。

毎度毎度表彰式という感じではありませんでしたが、月イチペースくらいでそれが開催されていました。

時には出入り業者さんまで表彰式にやってくる始末です。

すると元々営業部にいた人たちは、意図せずプライドがズタボロにされていきます。

支店の営業成績としては伸びており、個人の成績としてもカウントされていきますが、プロのプライドが潰されていくような感覚になっていきます。

紹介案件が増えるに従い、自然と通常の営業成績も伸びていきました。

まさに些細な力がもたらした無限連鎖という感じでした。

営業報奨を還元

そんなこんなで半期が終わると、支店の営業成績は前年対比でずば抜けて上がっていました。

そういうわけで本社営業本部などから、個人への営業手当などとは別に、支店あてに営業報奨として販促費や福利厚生費が割り当てられたりしました。

そのお金を使って、パート従業員の方々などへお返ししたり、支店全体でお祝い会の開催です。

それ以外にも冬にストーブを増設したり、カイロやマスクを配るなど、体への負担を軽減することにも目を向けられていました。

「手足が冷えたら、気分まで落ち込むからなぁ」

なんて言いながら、ありとあらゆる「テンションを下げる要因」を潰していったと言う感じです。

見事再生完了

そのような感じで、その敏腕支店長が来てから1年で、全国でも上位の営業成績を誇る支店に生まれ変わりました。

といっても、紹介案件は初年度くらいしか使えないので、それに依存することはできません。

ただ、それをきっかけにして支店全体の空気が変わり、紹介案件に依存しない通常の営業成績もかなり伸びていたので、ひとまずは再生完了と言う感じでした。

たった一つのデメリット

そうして廃れていた支店を1年で再生し、任務を終えた支店長は別の支店に異動されました。

それでも支店全体の空気は良いものとなっており、環境は改善され、士気も高まっていたので、万事問題なしかのように見えました。

しかし、次にやってきた支店長が、端的にいうと「カス」でした。

最初の四半期くらいは前年度の勢いのままうまく行っていたような感じでしたが、「改善」などという言葉を使い、せっかくの環境をまた崩していきました。

そうなると支店の誰もが「前の支店長なら…」と言う気分になってきます。

前の支店長が良すぎると、相対的に次に来る人がチンケに見えてしまいます。

そしてさらにその後任者が「カス」なら、より一層カスに見えてしまうのです。

敏腕支店長にたった一つデメリットがあるとすれば、それは後任者がチンケに見えてしまうことです。

半期を迎える頃には、また元の木阿弥になっていました。

本社としては数字の動きしか見ていないので不思議に思っているはずです。

まあリアルな体験としてその様子の中にいられたことは、いい経験だったなぁと思っています。

Category:company management & business 会社経営と商い

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