近代人の養育

すべてを食べる人間は、一番上等の種ではない。 曙光 171 中

うまい飯屋を「知っているだけの人」の類については、さんざん触れてきました。

しかし、味覚など本人の感性しだいであり、結局は頭の中で合成しているだけのことです。錯覚させようと思えばできてしまうことです。

しかし錯覚させなくても、たとえば白米や塩などであっても、よくよく味わうとなると、味を追いかけるのに相当の集中力が必要になります。

本当に集中して食べると、ご飯だけでもものすごく味が変化します。

ということで、「映画を観ながらのポップコーン」などはやってはいけないことです。

せっかくの映画も、せっかくのポップコーンの味もフルで味わうことができないからです。

というわけで今回は、食事について触れていきましょう。

ちゃんと食え

よほど体調がおかしくない限り、一応毎日毎日何かを食べているはずです。

しかしおそらくきちんとは食べていないでしょう。

食べていることには食べているのですが、しっかりと味わうこともなく、ただカロリーを摂取しているという形で食べているというケースが多く、その割にうまい飯を食いに行こうという欲だけは持っている人がほとんどだと思います。

食べ物を本当に集中して食べると、頭が追いつかず失神しそうになるくらい味の変化があります。

ということで、僕は昔から誰かと食事をすることが嫌いです。

昔から食事の時にテレビをつけたりもしません。ついでに言うと外食も嫌いです。

そういうわけで、誰かに「今度飯でも行こう」と誘うことはありません。

「食で楽しい時間を」

ということをコンセプトにしているような店はたくさんありますが、食を楽しもうと思えば一人で食べないと心底は楽しみもできないものです。

しつけではなく自発的に黙って食べる習慣ができた

こういうことをいうと勘違いされるのですが、我が家での食事マナーと言った類の躾がそういう方針だったわけではありません。

おじいちゃんは食事中にナイター中継を観ながら食べていました。

お父さんは、こちらが「黙れ」と言っても話しかけてくるような人です。

そういうような環境ですから、「黙って食べる」という習慣は、家庭発端のしつけではなく、いわば自発的にそうなりました。

ところが、人と何処か外食に行くと「話さない」「話さずに食事に集中する」というわけにはいかなくなります。そういうわけで外食は嫌いです。それならば、喫茶店の方がマシです。

特にパーティや居酒屋など、酒がメインで料理が蔑ろにされるようなところは大嫌いです。それならば百歩譲って酒だけの方がマシです。

食の感動と「食材に対する思い」

白米ひと粒であっても、今はご飯として出てきていますが、その前は稲穂です。

その米粒にも親がいて、生産地で土と水と太陽に育まれながら米になったのは容易に想像ができることです。

つまりそのひと粒には、そのひと粒のすべての歴史が刻まれているということです。

そのひと粒の一生、そしてその祖先から受け継がれている情報が、この一粒という結果に刻まれています。

ともすれば、食料を大切にしなさいというような道徳教育でも、生産者や運んでくれた人など、何でも「人」しか想像しないという「人間至上主義」が垣間見れます。

しかしそんな浅い想像で終わらせるのはもったいない、ということです。

雨の日もあったでしょう、カンカン照りの時もあったでしょう。

そんな中、立派に育った稲が、いま目の前にあるという事を感じなければなりません。

親がいて、土と水と出会って、そして太陽や窒素を吸収できるように変換してくれる微生物、そして生産者がその稲を育ててくれたこと、そして加工され、運ばれ、今目の前にある、つまり、その全ての因縁が、今目の前の結果になっています。

その種の起源から一度も死ぬことのなかった命が、今死んで目の前にいるということです。

「美食家だ」、「通だ」と言う前に、その事実をしっかり確認しなければなりません。

そうでないと、星がいくつもつくような店に行った所で、全身が震えるほどの食の感動を一生味わうことはないでしょう。

史上最高の味は、作り手だけでなく、その存在と受け取り手の心持ちが合わさった時にしか訪れません。

もし心底集中して味わったのなら、それが世間では時に捨てられてしまうようなパンの耳であっても、どこぞの「セレブ」が体験している味の比ではないほどの感動が待っています。

しかしその感動に足元を掬われてはいけません。

その経験すら「意識の持ち方次第なのだ」という事を知ればそれでよし、ということです。

入力の品質と食事

 近代人の養育 曙光 171

Category:曙光(ニーチェ) / 第三書

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