ボーダーコリー
ボーダーコリーと言ふのか、犬がゐる。
どうやら通りすがる度に相手をせぬと、ワンワン吠えるので、相手をしてみると、去り際には三倍キャンキャン鳴く。
「これは愉快だ」と態と相手をせずに去るのを日課にしてゐたのだが、氣まぐれに偶には相手をしてやらうと、近寄つてみると、汚物を口に咥えてゐる。「おひおひ、假にも君は女子ではないか」との助言も聞かずに咥えては放しの繰り返しをしてゐた。なので永久に放置をしようと心に決めた次第である。
この世には不可解な事象と言ふものが多々起こる。
何をもつて一般論なのかを根底から覆す出來事が稀に生じる。
先日、大坂驛にて急に年增の女に腕を組まれた。
「何ぞ用ですか?」と訊ねると、はにかんだまま全く答へようとせぬ。
全く理解できない行動なので、人違ひかと思ひもしたが、あへてそこには觸れず「御機嫌やう」と言つて去つてみた。
道端でいきなり、「いつもここを通る眼鏡をかけた人をご存知ではありませんか?」と尋ねられ、「よく分かりませんが、歲の程は如何程でせう?」と聞き返すと、「ぢやあいいです」と去つていかれた。
電車に乘つてゐると、いきなり好々爺とは言ひ難い人に、
「私は尋常小學校4年までしか出てません」と話しかけられ、
「ところで、お父さんは御幾つなんですか?」と聞いてみると、
「戰後は組合に入つてね」と返された。
出くはす度に「あ、○○や!」(○○には我輩の姓名が入ることをお斷りしておく)と叫ぶ小學生が、母親を引き連れて步いてゐた。
寧ろ母親に引き連れられてゐたにも關はらず、
何時もの如く「あ、○○や!」と叫ぶので、內心『さあ母君はどう出るのか』と樂しみにしてゐたのであるが、我輩に近寄つてきては「本當ですか?」と尋ねてきた。「ええ本當ですよ」と最高の笑顏で返答した次第である。
彼の前途に期待を膨らましてゐる。(2008年10月)
鸚鵡
我輩は兎も好きだが無類の鳥好きである。
どうやら空が飛びたひらしい。
飛べない我輩は不貞腐れながらも步かねば仕方あるまひ。
先日、森のやうな玄關の家の片隅で馬鹿でかい鸚鵡が籠の中から首を傾げてをつたので、すかさずこちらも同調してみた。
竒聲が發した。
どうやらキーと啼くらしい。 鸚哥はピヨと啼くのだが。
するとすぐ近くのワン公がキヤンキヤンと吠え出した。
啼き止んだ。
ものは驗しと言ふ。
我輩もこれに加はらうと言ふほんの出來心から、
「キー」と竒聲を發してみた。
鸚鵡殿はすかさずキーと言ふ。
一寸の間を經てワン公がキヤンキヤンと叫ぶ。
そんな風にして世界は今日も平穩に囘つてゐる。
ヒステリックラビット
我が家のヒステリックラビットは、相手をしないとヒステリーを起こしたりします。
「タスマニアデビルみたいな顔してんの?」といって撫でるとおとなしくなります。
先日、近所のおばさんが 「あら、うさぎちゃん、白い襟巻きしてんのかい?」 と問いかけていました。
なので、すかさず「白い靴下も履いています」と答えておきました。
やんちゃで元気なところが誰かに似ています。
ウサギの毛が生え変わる時期なので、ブラッシングしてあげたり、おやつをあげるふりをしてあげない、などなど養子と共同生活を営んでおります。(2009年10月)
我が家のウサギは親たる我輩に對してあまりに尻を向けるので、Kさんに相談してみた。 彼女とはウサギつながりで、たまにお話をする。
「撫でゝほしいんぢやない?」
と、おつしやる。
さらに「嫌がつてるなら逃げるでせう?」
と。
なるほど。
ふと思ひ返すと、あちらを向いてゐる時のはうが鼻筋を撫でやすい。
さつそく歸つて、 「スネ夫さんしてんの?」と、撫でると何とも心地よささうにまふまふする。
「オレ、ウサギやで。寂しかつたら死んぢやふんやで」 と、うちの養子は訴へかける。
そんなウサギは一方で圖々しい。
一度表に出すと、なかなか小屋には歸らない。 さらに寢そべつてゐる主人たる我輩の腹の上に堂々と乘る。
そして乘ること
一〇分、
二〇分…
まふまふまふまふ…
嗚呼至福也。
の、わりに極めて臆病である。 逃げ足はとてつもなく速い。 恐ろしく速い。
「ビヽつてんの?」 と聞くと
「オレ、思ひつきり草食系やで」 と、辯解する。
言ふ事をまつたく聞かない上に、寂しかつたらスネる彼との共同生活はなかなか良ひ修行になる。(2009年12月)
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