オキシデンドルム アルボレウム(学名:Oxydendrum arboreum)は、北アメリカ東南部原産のツツジ科オキシデンドルム属の落葉性高木です。日本においては別名として「スズランノキ」と呼ばれていたりもします(実際のスズランノキは別種です)。

オキシデンドルム アルボレウム(スズランノキ)
このオキシデンドルム アルボレウムは、ヌマミズキ科のニッサ・シルバチカ、ニシキギ科のニシキギと並び、世界三大紅葉樹のひとつです。
夏から秋にかけてはアセビに似た花をつけます。
そして秋には紅葉します。

オキシデンドルム アルボレウム(スズランノキ)葉2
本来のスズランノキ(学名:Zenobia pulverulenta)は、同じツツジ科の別属「ゼノビア属」を指すようです。こちらも北アメリカ東部原産ですが、このスズランノキは落葉低木で花は春咲です。
オキシデンドルム アルボレウムは落葉高木で開花期は夏から秋にかけてといった違いがあります。

オキシデンドルム アルボレウム(スズランノキ)
その葉は「酸っぱい」という驚き
「スズランノキ」という優雅な和名を持っていますが、学名の Oxydendrum(オキシデンドルム)の意味は、あまりにも即物的です。ギリシャ語で「酸っぱい(Oxys)」+「木(Dendron)」、つまり「酸の木」です。
嘘だと思ったら、若い葉を一枚ちぎって、少しだけ噛んでみてください(毒はありません)。レモンやソレル(スイバ)に似た、鮮烈な酸味が口いっぱいに広がります。かつてのアメリカ開拓民たちは、この葉を噛んで喉の渇きを癒やしたと言われています。目を楽しませるだけでなく、その葉には旅人を癒やすための酸っぱい水筒としての機能が備わっているのです。
世界三大紅葉樹の「真打ち」
ニシキギ、ニッサ、そしてこのスズランノキ。これらは「世界三大紅葉樹」と称されます。しかし、プロフェッショナルな視点で見れば、スズランノキの紅葉は他の二つとは一線を画す「深み」を持っています。
単なる赤ではありません。内側から発光するような透明感を持ちながら、同時に重厚なワインレッドや紫を含んだ、極めて複雑なグラデーションを見せます。さらに特筆すべきは、紅葉の持続期間の長さです。他の木々が散ってしまった後も、晩秋の強い日差しを浴びて、燃え尽きる直前の蝋燭(ろうそく)のように輝き続けます。その執念深いまでの美しさが、世界中のランドスケープ・アーキテクトを魅了して止まないのです。
一属一種の「孤独な王」
植物図鑑を開くと、スズランノキが「一属一種(いちぞくいっしゅ)」であることに気づきます。
地球上に、Oxydendrum 属の植物は、この Oxydendrum arboreum ただ一種しか存在しません。兄弟も親戚もいない、進化の過程で枝分かれした同胞たちがすべて滅んでしまった、孤高の存在です。アパラチア山脈の森の中で、彼らは太古から変わらぬ姿で、たった独りで種を守り続けてきました。庭に植えるということは、その長い孤独と、唯一無二の遺伝子を預かるということでもあります。
「リキッド・ゴールド」と呼ばれる幻の蜜
花は美しいだけではありません。実は、スズランノキの花から採れる蜂蜜「サワーウッド・ハニー(Sourwood Honey)」は、世界で最も美味しい蜂蜜の一つとして、愛好家の間で伝説的な扱いを受けています。
「酸っぱい木」から採れるのに、その蜜はバターキャラメルやスパイスを思わせる濃厚な甘みを持ち、後味にわずかなアニスのような清涼感を残します。アメリカ南部では「リキッド・ゴールド(液体の金)」と呼ばれ、高値で取引されます。葉は酸っぱく、蜜は甘美。このツンデレとも言えるギャップこそが、この木の隠された魅力です。
枯れてなお咲く「幽霊の花」
夏に咲くスズランのような白い花も素敵ですが、真の見頃は秋にやってきます。
花が終わった後、花弁は落ちますが、その後に残る果実(カプセル)が、上向きに立ち上がり、まるで花が咲き続けているかのような姿を保ちます。このカプセルは、紅葉の時期になるとクリーム色や淡い灰色に変わり、燃えるような赤い葉とのコントラストを生み出します。まるで、赤い炎の中に白い火の粉が舞っているかのような幻想的な光景。「花が終わっても、まだ終わらない」。二度目の美しさを楽しむことができる、非常にコストパフォーマンスの高い樹木です。
根をいじられるのを嫌う「気難しさ」
これほど美しい木ですが、日本の一般家庭であまり見かけないのには理由があります。それは移植の難しさです。
ツツジ科特有の細い根を持ち、一度植え付けた後に根を傷つけられるのを極端に嫌います。大木になってからの移植はほぼ不可能です。ですから、最初に植える場所選びが全てです。西日が強すぎず、水はけが良く、しかし乾燥しすぎない場所。場所さえ決まれば、あとは剪定(せんてい)要らずで美しい樹形を保ってくれます。最初の「場所決め」という契約さえ間違わなければ、生涯の良きパートナーとなってくれるはずです。
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