ご無沙汰しております。bossuです。
考えてみれば、「お金に関すること」カテゴリーの投稿は人気(?)にもかかわらず、最終投稿は1年半以上前になります。
まあそれほどお金に関心がなくなってきているのでしょう。でも一応元プロなので、ちょうど今あったばかりのトラブル、「無面接募集の生命保険契約を無効にする」ということについて、覚書程度に書いていきましょう。誰かの役に立つかもしれませんので。
満期保険金を受け取るシーン、つまり、養老保険保険が満期になった時に被保険者の生年月日証明などを求められる時があリます。
そんな時に、その保険が見に覚えのないようなものであれば、被保険者同意欄や告知欄などの代書・代筆による不適正募集として保険契約の無効を主張しましょう。
そうすることで掛け捨てとなっていた部分を含めた既払い保険料の全額が返ってきます。
被保険者の無面接・不同意による不適切な生命保険契約になりますので、当然に契約は無効であり、こうした営業活動を行うこと自体が違法です。ですので、保険契約は不成立であり、無効である旨を伝えれば既に支払った生命保険料は返還されます。
それでは、無面接募集の生命保険契約を無効にすることと、実際にそうした保険契約を無効にした時のやり取りについてご紹介していきます。
身に覚えのない保険の満期
ある時母あてに保険の満期のお知らせの葉書が届きました。
どうやら養老保険の満期手続きの案内のようでした。
生命保険には大きく分けて、養老保険、終身保険、定期保険といった分類がありますが、養老保険は保険期間満了時に満期保険金(生存保険金)が受け取れるタイプの保険です(いわゆる「掛け捨て保険」は定期保険です)。
そしてその被保険者は僕になっていました。しかし僕としては身に覚えのない保険でしたし、養老保険の保険期間から逆算すると当時僕は高校生でした。
ということで、高校生の時に保険の被保険者になった覚えなどありません。日中は学校に行っていましたし、休みの日や夜に生命保険募集人が我が家にやってきて何かの書類を書いたという覚えもありません。
「これは母か生命保険募集人のいずれかが代書したな」と思いました。
そういうわけで、この保険契約を無効にすべく保険会社に連絡を入れました。
なぜなら、その保険商品は「倍型」であり、死亡保険等々によってその間の「保障料」が発生しているため、満期保険金は既に支払った保険料の合計よりもかなり少ない金額だったからです。
養老保険と倍型養老保険
養老保険には等倍型から数倍型に設定されたものがあります。
ある程度の知識がないと少し混乱するかもしれないので単純に説明すると、保険期間満了時に100万円が貯まるタイプの養老保険だったとしましょう。
被保険者の年齢性別にもよりますが、普通の養老保険(等倍型)の場合は、総支払額が100万円前後です。金利の良い頃であれば70万円や80万円の支払いで満期時には100万円が受け取れるような保険でした。
なぜこんな商品があるのかというと、預貯金の場合は貯めている間に死んでしまうと予定金額まで貯まらないという問題があるからです。それに備え、保険期間満了時に確実にお金があるようにというプランニングをする時に使用します。
単純には積立の預貯金に死亡保険がついたような商品であり、お金を預かる期間が長いので高金利時代は既払い保険料よりも遥かに多い満期保険金を受け取れる金融商品でした。
一方倍型の養老保険は、この普通の養老保険に定期保険がセットで上乗せされたような保険です。
例えば5倍型の特別養老保険であれば、満期保険金が100万円なら死亡保険金は500万円という設定になっています。ということは、「100万円分の養老保険」と「400万円の掛け捨て定期保険」をセットにしたような保険商品だということです。定期保険は掛け捨てなので、単純に「保険料を支払って終わり」という感じで捉えて良いでしょう。
この商品は、「養老保険の金利分で定期保険の保険料に充当する」という属性を持ちつつ、保険会社の商品の仕組み的なものになりますが「医療特約などの設定金額を大きくするため」という属性を持っています。
これは、医療特約などにおいて「保険金額100万円あたり入院日額1500円分しか入れない」という設定になっているということです。
満期保険金額を100万円に設定した場合において「普通の養老保険なら100万円の契約で付けられる医療特約が入院日額1500円なので、それでは物足りなくないですか?」
という感じで、医療保障を大きくしたい場合に倍型を利用させることを目的としています。そして、死亡保障の分も保険料を支払わせるという感じです。
今回、母が僕を被保険者として加入していたのはこの倍型の生命保険でした。
ということで、身に覚えもないことですし、「保険料として支払い、掛け捨てた部分」が多い保険だったので、大企業である保険会社を相手に、不適正募集・契約の不成立を根拠に無効の主張をした上で、既払い保険料全てを返還させることにしました。
狡猾な保険会社の調査員・監査員
既に満期期日までほとんど日がありませんでしたが、満期で消滅させるか、解約するか、無効にするかといった感じで無いと、この保険契約は宙ぶらりんになってしまいます。
しかし、この保険契約は、被保険者である僕の生年月日・性別確認が未確認状態でした。そういうわけで、僕の身分証明書の確認が必須条件となっていたため、僕が納得しない限り、満期で消滅させることはできないという状態でした。
まず、保険会社の本社のコンプライアンス担当的なところの調査員(監査員)のような人が対応の担当になりました。
「私は被保険者として同意した覚えも、健康状態の告知欄に告知をした覚えもありません。契約日は平日のはずですが、当時高校生であり日中は学校に行っていましたし、帰ってきていても夕方以降です。夜にそんな人が来た覚えもありません」
「そうしましたら当時の契約書類を確認し、当時の募集人なども調査をした上で、ご自宅までお伺いさせていただきます。その時までに、ご自身のお名前と生年月日を大・中・小の大きさで書いたものをご準備しておいていただけますか?」
そのような感じの幕開けでした。
そして、当時の生命保険募集人は既に退職しているといったあまり本題とは関連しないような報告を受けながらしばらくが経ち、東京から本社のコンプライアンス担当が2名で我が家にやってきました。
名前と生年月日を書いたものを用意はしていましたが、そのことには触れてきません。
そしていきなり、「今やめられてもこれくらいしか戻りませんし、満期保険金とあまり変わりませんが」と、解約返戻金額を提示してきたのです。
「それ、解約返戻金ですわな?
こっちも素人やないんやで。
僕が言ってんのは『無効』ですわ。
身に覚えのない保険が出てきた、被保険者の同意欄も健康状態の告知欄も記入した覚えはない、ということはこの生命保険契約は成立してないってことや。
ほなら無効やな?
あんたもプロやったら解約と無効の違いくらいわかるやろ?
解約するってことやないんやで。
無権代理の代書を根拠に保険契約の不成立をもって無効の手続きを進めてくれ、ということや
どうせ営業のもんがうちの母に書かせたか、自分で勝手に書きよったんやろ。
僕の主張を覆すんやったら、まずは保険契約書の被保険者同意欄と告知欄を見せてからやな
さすがに契約書は見つかりませんでしたってことはないですやろ?」
そして渋々当時の契約書を出してきました。
筆跡を見る限り、保険契約者欄と被保険者欄は同じ字です。
「これは明らかにうちの母のものですな」
「しかし、高校生の親権者ですし、お母様は法定代理人でもありますので…」
「おっと、最高裁の裁判官さんの前でも同じこと言えるんか?
保険契約で親が代書(代筆)できる年齢は何歳までかな?
しらこいこと言ってたらあかんで」
すると脇にいた補佐役のような人が少し譲る形で割り込んできました。
「当時は契約が甘かったからですね。お母様が書かれたのでしょう」
「まあおそらくそういうことやわな。
代書をそそのかしたんか、言わんかったんか、母が代筆させることを許容した生命保険募集人もアウトやし、この書類をチェックして契約の有効判定をした人らもアウトやろ。
少なくとも僕に責任はないで。保険契約自体知らんかったんやからな」
そろそろ話も終わりかと思いきや、まだ粘ってきました。
「今まで保険の存在を知らなかったんですか?」
「知らんな」
「社会人になられた時に、何か保険には入っているんだろうか、というような疑問はなかったんですか?」
「ありませんな。残念やったな。病気でも怪我でも入院したこと無いんやからな。追認で有効ってのも諦めとき」
一通りそんなやり取りをした後
「私達では何とも言えませんので、弁護士を交えた社内会議にかけて、無効手続きを取るかどうかの判断をした上で、また改めてご連絡させていただきます」
「この期に及んでもまだ、自分らに決定権があるかのような言い方やな。まあ、お勤め人さんやから仕方ないんやろうけどな。
次は弁護士でもなんでも連れてきてええで。
まあこの件でまだもがこうとするような弁護士がいるんやったら紹介して欲しいわ。
ああ、言っとくけど、おたくら二人には敵意もクソもないで。
ただ、契約自体はかなり前の話にはなるけど、保険会社としてのあり方をよくよく考えてや。
で、相手が素人でも難癖つけて解約扱いにしようとしたり、揚げ足取ろうとしたりしたらあかんで。人間としての品位が問われるわ」
後日、担当のうちの代表の方から、無効手続きの決定の連絡が入りました。
一件落着です。
以下、生命保険契約の成立などの要件について不適正募集を無効にするためのポイントについて書いていきます。
保険契約の成立
保険って嫌なイメージがあるじゃないですか。あれは、とりあえず営業力だということで、保険契約をもらうことばかり考えていた保険会社の責任であって、保険自体はシステム的に結構いいものです。
で、保険の契約ですが、契約自体は保険の申込書と健康状態の告知書と第一回保険料の納付の三点セットで成立します。保険会社によっては告知ではなく健康診断が必要な場合もあります。が、たいていは健康状態の告知で済ませているでしょう。
- 保険契約申込書
- 健康状態の告知書(健康診断)
- 第一回保険料の納付
あと付加要素としては生年月日や性別の証明書ですね。
ではそれぞれ見てみましょう。
保険契約申込書
まあ民法を勉強した人ならご存知だと思いますが、契約というものは意思の合致で成立します。「申込」と「承諾」ですね。だからこそ契約書がなくても口頭とか、行動でも意思表示が合致すれば契約は成立します。
「行動でも?」
と思う人もいるでしょうが、わかりやすいのは、コンビニのレジです。別に口頭でやりとしなくても、売買契約が成り立っているじゃないですか。
レジに持っていったらそれが申込みか、と思う人もいるかもしれません。
でも理屈的には、商品を陳列している事自体が申込で、商品をレジに持っていくことが承諾みたいな感じです(意見が分かれるポイントですが概ねそんな解釈になっています)。
まあそれはさておき、申込と承諾があって「契約」は成り立っています。
でも、それは民法という一般法の原則なだけで、一部の分野ではプロ、素人の情報差とかがある場合に特別な規定を設けている場合があります。いわゆる特別法ですね。商法も消費者契約法も特別法です。
で、保険の契約でも当然に申込と承諾が必要になります。でも、契約が成立するためには、意思の合致だけでなく、他にも要素があるんです。
保険契約の場合には、第三者が登場することがあります。
契約者と被保険者
それは被保険者です。まあ保険の対象となる人です。
契約者と被保険者の違いは、「保険の契約をする人」と「保険をかけられる人」です。お母さんが息子に保険をかける、という場合がわかりやすいですね。
で、申込書なんですが、普通は契約の主体となる契約者と保険会社だけで終わらずに、被保険者が別にいる場合は3者で契約を取り交わすんです。
保険契約者A(母) 被保険者B(子)
死亡保険金受取人A(母) 満期保険金受取人A(母)
この場合は母Aが基本的な保険の契約を行うが、子Bの「同意」と「健康状態の告知」および「生年月日証明」が必要になる。よって母と子と保険会社(生命保険募集人)の3者で契約することになる。
いわば保険をかけられる人である「被保険者」が、「私に保険をかけてもいいですよ」と意思表示をしなければ、成立しません。被保険者の同意ですね。無面接募集の場合は、被保険者が保険契約申込書すら見ることがなかったりするので、もちろん不同意になります。
もちろん保険契約者と被保険者が同じ場合もあります。夫が「自分が死んだ時に妻に保険金が入るように」と保険に加入する場合です。
このときは、保険契約者と被保険者が同じ人ですから、保険契約者と保険会社2者で成立します。
保険契約者A(夫) 被保険者A(夫)
死亡保険金受取人B(妻) 満期保険金受取人A(夫)
この場合は夫Aが単独ですべての契約のやり取りを行うことができる。よって夫と保険会社(生命保険募集人)の2者で契約が可能。
ここでややこしいのが、保険契約者と被保険者が異なるときです。
原則被保険者の自筆で同意欄の記入や健康状態の告知が必要になりますが、その場で同席などをしていない限り、一発で契約が成立しないので、契約者や生命保険募集人が被保険者欄を勝手に書いて契約を成立としているケースがよくあったそうです(いわゆる正当性なき不適正な代書、代筆です)。だいたい2001年位までは、そんな感じの契約が多かったそうです。
告知書
また、保険契約には健康状態の告知が必要です。保険会社によっては健康診断を必要とするところもあります。
死亡率の高い病気を患っている人が、健康な人と同じ保険料で保険に加入できてしまうと、話がややこしくなりますから、ひとまずは、健康な人しか生命保険や医療特約に入れないことになっています。
「予防のために血圧の薬を飲んでいる」というケースではたいていアウトでしょう。
予防している方が死亡率が下がると考えますが、そもそも予防すらしなくていい人と同じように扱うわけにはいかないからです。
そんな感じで、保険契約の成立には、健康状態の告知が必要です。
「誰の?」となると、もちろん保険をかけられる人、被保険者です。
ここが無面接募集の無効のキーポイントです。
第一回保険料の納付
で、面白いのが、第一回保険料の納付をもって保険契約が成立するという点です。一般的な契約は、契約自体は意思の合致で成立して、あとは債権債務関係になります。
でも保険契約は、債務の履行である保険料の納付が無いと、契約自体は無効になります。
そういうわけで、「送金飛ばし」という手口で、上司を騙す成績のごまかしがあるそうです。
いわば、保険料の納付は後日送金で行うという契約パターンで、ひとまず契約書を持って返って上司を納得させるやり方です。
「今月の数字!今月の数字!」みたいな体育会系の恫喝なんかで、営業部隊を動かしているからそんなことになるんです。
でも上司も、嘘だと分かっているケースがほとんどです。でも黙認しているのは、上司もそのまた上司を騙さないと自分が怒られるからです。
売れないものは売れないとして、事実を受け入れる必要があります。
でないと良い商品とか、営業人員が多すぎるから規模を縮小しようとかいう考えが浮かんできません。人が多いと、その人達の人件費を賄うだけの売上が必要ですからね。
規模を縮小するということはネガティブでもマイナスでもないんです。いわば最適化です。でも、体育会系の恫喝でなんとかなると思っていると、その最適化は行われません。
生年月日の証明書
さて、付加要素の生年月日の証明書です。性別確認も要りますけどね。では、なぜそんなものがいるのか?
それは、年齢によって保険料が変わるからです。生命保険には、死亡保険と生存保険という概念があります。
いわゆる満期保険金というのは生存保険です。これは「その期日に生きていることが、保険金支払いのトリガー」という発想です。死亡保険金は「この期間に死亡したらそれが保険金支払いのトリガー」という発想です。
で、どっちにしても、いちおう若い人のほうが生きている確率が高いので、保険料は安くなります。
自己申告の年齢で保険契約を成立させてしまうと、養老保険なんかの生存保険金でお得になってしまうことがあります。年齢が若いほど支払保険料(払済保険料)に対しての満期保険金が高くなります。
死亡保険金にしても、基本的に若い人の方が亡くなるリスクは低く、そのリスクの低さゆえ支払保険料が安いので、仮に死亡保険金の額が同じなら支払いに対するリターンが大きくなってしまいます。ただ、死亡保険金に関しては、医師の死亡診断書または死体検案書などが必要になるため、生年月日のごまかしはききません。
今はゼロ金利ですからあまり関係ないですが、昔は、総支払額が80万円でも満期の生存保険金が100万円になる時代もありました。
その時代に、例えば被保険者の年齢を5歳若くしたら、総支払額が79万円で、満期時に100万円になることもあったのです。その時代に自己申告ではなくちゃんとした生年月日の証明が必要なことはよくよく分かる話です。同時に男性と女性とでは平均余命が異なるため、男性が女性だと詐称すれば若干満期保険金に対する総支払保険料額が安くなるという構造があります(まあ基本的には性別はごまかしようがないですが)。
そういうわけで、支払保険料に関係することなので、生年月日や性別の確認が必要になります。
でも当時は契約自体がゆるゆるでした。生年月日の確認は、保険契約時ではなく、満期保険金受取とか死亡保険金受取のときでいいという事になっていました。
「お金が出ていく時に確認すればいいか」
という感じです。なぜなら、「免許書のコピーを下さい」といっても、家に複合機なんてない時代です。下手をするとコンビニすらあまりなかった時代です。
「めんどくさい」
そう思うでしょう。
で、そう思われたら契約がおじゃんになるかもしれない、そんなことを思った生命保険募集人たちは、「満期保険金受け取り時にまた確認させていただきます」という一言で、その手間を省くのでした。
ここも、無面接募集の保険契約を無効にするポイントです。
保険金の受取
保険金の受取は、保険金の受取人が行います。本人が本人にかけた保険の死亡保険金を除いて、養老保険(保険期間が満了となった時に生存保険金としてまとまったお金を受け取ることのできる保険)であればほとんどは保険契約者とイコールです。
でも、そのためには、保険契約を最後まで完璧にする必要があります。保険契約の成立要件をすべて満たす必要があるのです。
というのは、契約は続いていましたが、生年月日証明などなど、実は完全に書類が揃っていないケースがよくあるからです。
でも、保険自体が満期を迎えるにあたって、契約自体が完璧だったかと言えば、被保険者の同意(「私に保険をかけてもいいですよ」という意思表示)や、健康状態の告知を本当に被保険者がしたのか、ということが争点になります。
無面接募集
ここで問題となるのが無面接募集です。
いわば、被保険者の同意や被保険者による健康状態の告知をパスして、勝手に保険契約者と保険会社の代理人である生命保険募集人が、保険契約を交わしたときです。
つまり、お母さんが、被保険者が息子の保険を息子の同意や息子直筆の健康状態の告知をさせずに、勝手に保険に入ってしまうケースです。小学生まではお母さんの代筆でも大丈夫ですが、中学生になるともうダメです(12歳以上)。ただ、この年齢の条件は、法改正や社内規定などによって変更になる場合があります(現行は15歳以上のようです)。手に障害などがない限り、本人が生命保険加入への同意の意味も込めて被保険者欄に直筆でサインしたり、健康状態の告知をする必要があります。
被保険者にあたる中高生の子供が直筆で「保険契約申込書」の「被保険者欄」に氏名を書いたり、健康告知書の告知欄の質問項目に直筆で回答し、直筆で署名をする必要があるということです。
しかし、平日の昼間なんかに中高生の子供が家にいるはずがありません。たいてい学校に行っています。
でも、当時の生命保険募集人は、仕事が夕方まででした。
だからこそ、
「お母さんが代わりに書いても大丈夫ですよ」
とか
「じゃあ書いておきますね」
とか
質問をしながらチェックしているふりをして(そういう形式だと思わせて)、勝手に代書していたのが事実です。
「お子さんは未成年ですから、親権者であるお父さん・お母さんが記入される形で結構ですよ。でも名前は息子さん・娘さんの名前で書いてください」と言ったふうに、加入者が保険業法の定めを知らないことを良いことに、「親権者だから」など、それっぽいことを言って、保険契約者であるお父さん、お母さんに代書・代筆させていたというケースが多いでしょう。
ということは無権代理です。
無権代理
無権代理って字のごとくですけど、代理権のない人が、本人の代わりに本人に関する法律行為をすることです。
で、これって面白くて、基本的に無効なんですけど、本人が追認すると有効になるんです。(あと、表見代理って言うのがあって、相手が本人の代理人だと信じるに足りる理由なんかがあったりすると有効になるケースもあります)
例えば、自分名義で、知らない人が勝手に何かを契約してきたと(普通は疑いをかけられて契約できないですが…)。
で、基本的にそんなことが通用するわけないんですよ。自分ちの隣の人が、僕の名前で、高級羽毛布団の契約をして、それが成立するわけないんです。
でも、本人が追認すると有効なんです。
「あ、そうなの、じゃあ貰っておくわ」とその契約を認めると有効になるんです。
追認で有効に
ここが無面接募集の本来無効になる契約が有効になってしまう罠です。
先ほど、「生年月日証明」の話をしましたが、満期保険金受取の段になって、免許証とかのコピーなんかを求められる場合があります。
で、現在有効な免許証の原本提示とコピー提出なんかをすると、追認してるみたいな構造になるんです。
「いままでは知らなかったけど、そうだったんだ。お母さんが満期保険金の受取に必要なら提示するよ」
ということは、無権代理を追認することになりかねません。
でも、保険会社は、「お受け取りに必要な書類です」としか言いません。
自分たちの代理人である生命保険募集人が行った、保険契約者にそそのかした無権代理を棚に上げて、そう言って盲目の追認をさせます。
で、保険金受取人が満期保険金を受けとったら、全てが無かったことなります。
「いやもう終わったことですから」
そういうのが目に浮かびます。
保険契約を無効にする
保険契約を無効にするということは、どういうことかというと、そもそもの契約自体が成立していないことにするという感じです。
初めの方で、保険契約が成立するための条件を少しお伝えしましたが、被保険者の同意や被保険者自身の健康状態の告知などが、保険契約の成立要件だったはずです。
でもその欄は、おそらく保険契約者か生命保険募集人が代書しているでしょう。
その代書された保険契約申込書や告知書の原本は、その保険契約が満期を迎えて消滅するまで保存されているはずです。
被保険者の生年月日証明を求められた時に、きちんと「私はそんな保険契約は知らない。同意した覚えはない」と言いましょう。
有効だというのなら原本を見せてみなさい、と。
保険契約の「解約」と「無効」の違い
ここで生命保険契約の「解約」と「無効」の違いについて触れておきましょう。
先の保険会社とのやり取りで少し触れていましたが、解約とはあくまで有効な契約、成立している契約を消滅させることです。
なお、解約と似た概念として解除いうものがありますが、共に一方的な意思表示で契約を消滅させることを意味しますが、解除は遡って消滅させること、解約は以後消滅させることです。解除の場合は遡って消滅させるという感じになりますが、解約は、将来に向かっての分を消滅させるという感じです。
そんな感じで生命保険契約を解約した場合、今までの契約に関しては有効だった扱いにし、それ以後は消滅させるという感じになります。
というわけで、解約した場合は、一般的にそれまでの間の「保障料」を消費したという形で取り扱われます。「保険契約が続いている間、死亡保険などで保障させていただいていましたよね?」という感じで、料金を支払った形になるということです。
ということで、解約の場合は、保険会社の定めた解約返戻金を返してもらうという形になります。概ね短期解約の場合は解約返戻金は少なく、死亡保障分の大きい倍型の養老保険の場合は、保険料を消費したという解釈になります。ということで、解約すると既払い保険料よりも少ない金額しか返ってきません(なお、終身保険などでは解約のタイミングによっては、逆に総支払額より解釈返戻金の方が高くなる場合がよくあります)。
一方、無効の場合は、契約成立の要件が揃っていなかったという感じで、その効果も初めから無かったものとして取り扱われます。
そもそもの生命保険契約が成立していないことになるので、無効になったとすれば、契約成立の時点まで遡って「無かったこと」になり、その間に何かのやり取りがあったのであれば、「全部契約開始時点の状態まで元通りにする」ということが起こります。
保険契約無効の効果
では、保険契約を無効にすることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
それは、無面接募集を行った生命保険募集人に制裁を加えるというだけではありません。
契約自体が無効になる、ということは、全ての債権債務関係がリセットされるということです。
簡単に言うと、保険自体が成立していないので、保険料の支払いも無かったことになります。
でも、実際には支払っています。
ということは、保険契約を無効にすることで既払い保険料が全て返ってくることになります。(医療特約など、保険自体の利用歴があるとダメですが)
健康でいたならば、遡って「死亡保険」が無効になっても何の問題もありません。保険自体も無効になりますが、「保険料の支払い」も無効になります。
バブルの頃の高金利時代の保険なら、満期保険金の方が高いこともあるでしょうが、基本的に養老保険は医療特約などを合わせると、満期保険金でもらえる金額よりも、支払った保険料の総額のほうが高いはずです。
特に倍型と言われる、満期保険金よりも死亡保険金が数倍高く設定されているタイプは、死亡保険にかかる分の「掛け捨て部分」があります。医療特約などならほとんど完全に掛け捨てです。
つまり、養老保険の満期保険金をそのまま受け取るよりも、保険契約を無効にしたほうが、「掛け捨て部分の消費」が無効となり、既払い保険料の総額が返ってくるので、金額が大きくなります。
例えば、毎月5000円で、10年後の満期保険金は30万円の倍型養老保険だったとしましょう。
この場合、総支払保険料は、60万円です。
つまり30万円は、生命保険料や医療保険料として掛け捨てていたことになります。
無面接募集の保険契約を被保険者が追認し、満期保険金を受け取ってしまえば30万円ですが、「契約に同意した覚えも告知した覚えもない。無面接募集ですので無効です」とした場合は、総支払保険料の60万円が返ってきます。
誰が悪いのでしょうか?
それは、素人の甘い客だと考えて、正規の取扱をしなかった生命保険募集人です。そして数字のことしか考えない保険会社です。
生命保険に関する知識の差があるから保険に関する特別法があるんです。
弁護士さんを使っても良いと思います。
もし被保険者(保険をかけられる人)として見に覚えのない契約が出てきたときには、一度調べてみましょう。
「数字だ!」と雄叫びをあげてきた、体育会系営業の末路です。
それで保険会社が潰れたとしても問題はありません。
こんなことがたくさん露見して潰れてしまうような会社は、そもそも存在していることのほうがおかしかったというのが本当のところなのですから。
生命保険をはじめ、投資信託や個人向け年金といった金融商品の不適正募集・不適切な営業についての背景や手口については、「生命保険等金融商品の不適正募集の背景や手口」をご参照ください。
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