秋海棠(シュウカイドウ)

秋海棠(シュウカイドウ)は、スミレ目シュウカイドウ科シュウカイドウ属の多年生草本です。球根植物で、草丈は50~60cm、茎は直立し、全体的に多汁質で、独特な葉形や草姿をしています。花弁は2枚、萼は2つ。真夏の強い日差しや、乾燥に弱いようで、どちらかと言うと日当たりよりも日陰を好む性質があるようです。別名として、瓔珞草(ヨウラクソウ)、相思草、八月春、断腸花といった呼称があります。シュウカイドウは中国原産の外来植物です。

地下茎が塊根状で越年

秋海棠(シュウカイドウ)は、地下茎が塊根状で越年し、翌年に発芽、発根して生育します。毎年新しい塊恨をつくり、新旧の塊根が交替します。

なお、葉にはシュウ酸が含まれているため、うさぎは与えない方がいいでしょう。

秋海棠(シュウカイドウ)の花

秋海棠(シュウカイドウ)は、8月ごろに茎頂、葉腋から10cm前後の花茎を出して、初秋の頃から、数回二股に分岐し、その先に枝先にピンク色の可憐な花を8~10個ほどすこし垂れるようにつけ、順次開いていきます。雄花は鮮やかなピンク色で、花梗は紅色、雌花も美しい淡紅色をしています。通常、雌雄同株で、雄花穂と雌花穂とは別々につけます。

秋海棠の別名

秋海棠には、瓔珞草(ヨウラクソウ)、相思草、八月春という別名や、新・秋の七草として「秋海棠」を選定した、永井荷風氏がつけた「断腸花」という別名もあります。

断腸花

昭和初期、新選秋の七草のひとつとして、シュウカイドウを選んだ永井荷風氏は断腸亭という庵の庭に秋海棠を植え替えたことから、

「心ありて庭に栽えけり断腸花」

という句を残しました。そこから断腸花という別名がついたようです。

左右非対称の「片想い」

シュウカイドウの葉を一枚、じっくりと眺めてみてください。きれいなハート形をしていますが、中心の葉脈を境にして、左右の大きさが極端に違うことに気づくはずです。

植物学的には「不相称(ふそうしょう)」と呼ばれるこの形こそが、この植物の個性の核です。左右がズレていることで、葉が重なり合った時に下の葉にも光が届きやすくなるという、日陰植物特有の生存戦略です。 しかし、古人はこの「片方が大きく、片方が小さい」アンバランスな形に、満たされぬ恋心を重ねました。花言葉の「片想い」は、この葉の形に由来します。完璧な対称性を拒み、少し崩れた形を選んだ彼らの姿は、割り切れない人間の感情の機微を映し出す鏡のようです。

葉の脇に宿る「碧(あお)い真珠」

秋が深まると、葉の付け根(脇の下)に、パチンコ玉のような小さな粒がついているのを見つけることができます。

これは種ではなく「むかご(珠芽)」です。種子が「交配による遺伝子の多様性」を狙うギャンブルだとするなら、むかごは「自分と全く同じ遺伝子を残す」確実なクローン作成です。 やがて地面に落ちたむかごは、土に潜り、春を待ちます。種よりも栄養を多く持っているため、発芽率も生存率も圧倒的に高いのです。可憐な花を愛でている間に、彼らは葉の陰で着々と、自身のコピー(分身)を大量生産し、地面を制圧する準備を整えています。

雄と雌、異なる「幾何学」

同じ株の中に「雄花(おばな)」と「雌花(めばな)」が同居していますが、その見分け方を知ると、観察がより楽しくなります。

まず開花するのは、花の中心に黄色い球状のしべを持つ「雄花」です。花弁は4枚のように見えます(実際は花弁2枚、ガク2枚)。 その後を追うように咲くのが、先端がねじれたしべを持つ「雌花」です。最大の違いは、花の後ろ側です。雌花の後ろには、三角形の羽根が生えたような「子房(しぼう)」という膨らみがあります。

種を作るための袋(バッグ)を背負っているのが女性。何も持たずに軽やかに咲くのが男性。その役割の違いが、明確なシルエットの差となって現れています。

ベゴニア界の「異端児」

園芸店に並ぶ華やかなベゴニアのほとんどは、熱帯・亜熱帯が原産で、日本の冬の寒さには耐えられません。しかし、シュウカイドウだけは例外です。

彼らは「耐寒性ベゴニア」とも呼ばれ、日本の凍てつく冬を、地下に球根を作ることで乗り越える術(すべ)を身につけました。いわば、南国の記憶を捨て、四季のある温帯に適応した「進化の異端児」です。 冬になると地上部は溶けるように枯れて跡形もなくなりますが、春になれば必ず芽吹く。その信頼感こそが、古くから日本の庭、茶庭の湿った片隅で愛され続けてきた理由です。

「断腸花」という悲痛な別名

美しい姿に似合わず、シュウカイドウには「断腸花(だんちょうか)」という、胸が張り裂けるような別名があります。

中国の伝説では、愛する人を待ちわびて涙を流し続けた女性が、ついに会えぬまま息絶え、その血の涙が落ちた場所から生えてきた花だと言われています。 茎や葉の裏に見られる鮮やかな「赤色」は、植物学的にはアントシアニンによる光合成補助や保温の機能ですが、物語を知る者の目には、それが切なる情念の色に見えてきます。うつむき加減に咲く花姿は、地面に落ちる涙を隠しているようでもあります。

硝酸(酸味)が守る聖域

シュウカイドウの茎や葉には「シュウ酸」が含まれています。これはカタバミなどと同じ酸味成分で、噛むと酸っぱい味がします(※微毒なので食用にはしません)。

この酸味こそが、ナメクジや虫たちから身を守るバリアです。湿った日陰は虫たちの楽園ですが、シュウカイドウの葉が虫食いだらけにならずに美しさを保っているのは、体内に酸という「剣」を隠し持っているからです。柔らかく瑞々しい外見ですが、安易に触れる者を拒絶する化学的な強さを持っています。

シュウカイドウ属

シュウカイドウ属の仲間は現在のところ属の学名のベゴニア(Begonia)として知られており、オーストラリアを除く全世界の熱帯、亜熱帯に広く分布し、その種の数は現在のところ約2000種といわれています。

分類は次のとおりです。

  • 球根性ベゴニア
  • 根茎性ベゴニア
  • 木立性ベゴニア

シュウカイドウはこの内の球根性です。

木立性ベゴニアは、生育形態から、さらに叢生(そうせい)型、矢竹型、多肉茎型、つる型に分類されます。

Category:植物

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