食虫植物は、光合成をしながらも虫を捕まえる機能を持ち、捕まえた虫を消化吸収することのできる植物です。他の植物と異なり、虫を誘き寄せるだけでなく捕まえるための器官を持ち、栄養分を吸収するための器官をもっているという感じです。
食虫植物の捕虫方法
食虫植物の捕虫方法には、落とし穴式、粘着式、ばね式、吸い込み式、誘導式といった5つの分類があります。
落とし穴式
葉の内腔の発達が著しく、虫が内部に落ち込みやすくなっており、自力で這い出せないようにして捕虫する方法。
ウツボカズラ(ネペンテス)属、サラセニア、ダーリングトニアはこの落とし穴式です。
その他、フクロユキノシタ、ヘリアンフォラなどが落とし穴式です。
粘着式
著しく発達した腺毛が出す粘液によって粘着補虫する方法。
モウセンゴケ(ドロセラ)属、ムシトリスミレ(ピンギキュラ、ピングイクラ)属、ビブリス属、ロリドゥラ属(ロリズラ属)、ドロソフィルム属、イビセラ属など。
ばね式
虫からの刺激により、植物自身が二枚貝状の葉片を閉合運動し虫を捕らえる方法。
ハエトリグサとムジナモ。
吸い込み式
蓋のついた捕虫嚢をもち、水圧の差で虫を吸い込む捕虫方法。
タヌキモ(ウトリキュラリア)属、ポリポンポリックス属など。
誘導式
逆走ができない迷路により虫を食虫器まで誘導して捕虫する方法。
ゲンリセア属。
ハエトリグサ(ハエトリソウ)
ハエトリグサ(蠅捕草、ハエトリソウ)北アメリカ原産、ウツボカズラ目モウセンゴケ科ハエトリグサ属の食虫植物です。ウツボカズラと並び食虫植物の中でトップクラスに有名な植物です。
ウツボカズラ
ウツボカズラ(靫葛)は、 ナデシコ目ウツボカズラ科ウツボカズラ属の食虫植物です。落とし穴式で捕虫するタイプで、ハエトリグサと共に食虫植物の代表格とも言える植物です。
サラセニア・ダーリングトニア
サラセニアは、分類体系によって異なりますが、ツツジ目サラセニア科、双子葉植物綱ウツボカズラ目サラセニア科の植物です。別名は瓶子草(へいしそう)。
北米原産のサラセニア科ダーリングトニア属の食虫植物ダーリングトニア。この属は独立して一種のみとなるようです。
モウセンゴケ
モウセンゴケ(毛氈苔)は、ナデシコ目モウセンゴケ科モウセンゴケ属の食虫植物です。苔(コケ)という名称がついていますが、種子植物であり苔ではありません。
ムシトリスミレ
ムシトリスミレはタヌキモ科ムシトリスミレ属の食虫植物で、捕虫方法は粘着式です。
他の粘着式食虫植物
他の粘着式食虫植物として、バラ目ビブリス科(Byblidaceae)のビブリス属とロリドゥラ属(新エングラー体系・APG植物分類体系では独立したロリドゥラ科)、ナデシコ目ドロソフィルム科( Drosophyllaceae)のドロソフィルム属(Drosophyllum)、シソ目 ツノゴマ科(Martyniaceae)イビセラ属の植物がいます。
ビブリス属とロリドゥラ属
ビブリス属(Byblis)は主としてオーストラリアに分布し、ロリドゥラ属(Roridula、ロリズラ属)は南アフリカ南部に分布しています。
ビブリス
葉全体に粘液をまとうため太陽の光でキラキラすることから、英語ではレインボープランツと呼ばれるようです。オーストラリア北部の熱帯エリア、オーストラリア南西部の乾燥地帯に分布し、熱帯湿地性、温帯乾燥性といったグループに分かれているようです。
ロリドゥラ
南アフリカ南部の湿地にのみ分布し、デンタータ、ゴルゴニアスという2種のみで構成される食虫植物の属です。自らは消化酵素を分泌せず、葉からは吸収できないので、捕虫性の虫や微生物の力を借りて捉えた虫を分解して根元から養分を吸収するという点や、粘液が膠質で葉が乾燥した後も粘度が落ちないという特徴があります。こうした特徴から、一時期、食虫植物から除外されていたこともあるようです。現在でも半食虫植物として扱われることもあるようです。
ドロソフィルム属
ドロソフィルム属(Drosophyllum)は、食虫植物の中でも大型種で、大型の虫をも捉えることができる粘りの強い粘液が特徴です。スペイン、ポルトガル、モロッコの乾燥地に分布しています。葉の形状はイトバモウセンゴケに似ていますが、肉厚で「若葉の時は外巻き」というのが違いのようです。
イビセラ属
イビセラ属(Ibicella)は、平成に入ってから食虫植物として扱われだした属です。南米原産で茎も花も大型です。一般的には同属であれば同じような生き方をするものの、他のツノゴマ科は葉に毛はあるもの粘液を出して捕虫することがなく、この属だけが粘液を出して捕虫するという珍しいタイプの食虫植物です。
イビセラ属として扱われるキバナツノゴマ(学名 : Ibicella lutea)は、果実の形状として曲線的な2本の鋭く尖った鉤爪のようなさやの先端を持つことから、悪魔の爪(デビルズクロー)とか、ユニコーンプランツと呼ばれたりもするようです。
食虫植物 極限環境における生存戦略と収斂進化の生理学
食虫植物が「虫を捕らえる」という能動的な形質を獲得した背景には、植物生理学における明確なコストとベネフィットの計算が存在します。これらは主に、窒素やリンが極端に欠乏した酸性湿地や岩場という「不毛の地」で生き残るために進化しました。
1. 栄養獲得のエネルギー投資効率(コスト・ベネフィット理論)
植物にとって、捕虫葉という複雑な器官を維持し、消化酵素を分泌することは、膨大なエネルギー(光合成産物)を消費するハイリスクな投資です。通常の植物は、光合成を行う「葉」にエネルギーを最適化しますが、食虫植物は「光合成効率の低下」という代償を払ってでも、「昆虫からの窒素獲得」というリターンを選択しました。学術的な研究によれば、土壌からの栄養吸収が困難な環境下においてのみ、この「捕食による栄養補給」が、光合成能力の維持よりも生存に有利に働くことが数理モデルによって示されています。
2. 収斂進化(しゅうれんしんか)の分子メカニズム
食虫植物の驚べき特徴は、分類学的に全く異なる系統(ウツボカズラ目、ナデシコ目、シソ目など)に属する植物たちが、それぞれ独立して「捕虫」という同様の機能を獲得した「収斂進化」の典型例であることです。 近年のゲノム解析によれば、異なる科の食虫植物が分泌する消化酵素(キチナーゼやプロテアーゼなど)は、もともと病原菌から身を守るための「防御タンパク質」が転用されたものであることが判明しました。進化の過程で、全く異なる祖先を持つ植物たちが、既存の遺伝子を再利用して、ほぼ同じ分子レベルの解決策に辿り着いたという事実は、生物学における進化の必然性を示唆しています。
3. 感覚と運動のバイオメカニズム
特にハエトリソウに見られる「高速な閉鎖運動」は、植物生理学における活動電位の伝達プロセスの極致です。感覚毛(センサー)に触れた刺激が細胞膜のイオンチャネルを開き、カルシウムイオンの流入によって電気信号が伝播する仕組みは、動物の神経系と驚くほどの類似性を持っています。また、獲物が逃げ出した場合の空振りを防ぐため、「30秒以内に2回刺激を受ける」という、一種の短期記憶のようなカウンター機構を備えている点も、植物における高度な情報処理能力の証明として注目されています。
特殊化された生態系と保全医学
食虫植物は、特定の環境に高度に専門化(スペシャライズ)した結果、環境の変化に対して極めて脆弱な側面を持っています。湿地の乾燥化や、富栄養化(肥料成分の流入)は、彼らが数千万年かけて築き上げた「低栄養環境での優位性」を即座に無効化してしまいます。
食虫植物の生理を学ぶことは、光合成のみに依存しない植物の多様な代謝経路を知るだけでなく、生物がいかにして過酷なニッチを埋め、資源を奪い合わずに共生してきたかという生態学的な均衡を理解することに繋がります。彼らの複雑な捕獲システムは、未だ人工的に再現できないほど精密なバイオテクノロジーの集積であり、その遺伝子資源を保護することは、未来の生物工学における重要な基盤を維持することを意味しています。
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