露草(つゆくさ)は、ツユクサ科ツユクサ属の一年草。青花(あおばな)と呼ばれるようですが、花の青い色素はアントシアニン系の化合物のようです。開花時に全草を採って乾燥させたものは鴨跖草(おうせきそう)と呼ばれ、下痢止め、解熱などに用いられるようです。
栽培変種の大帽子花(オオボウシバナ)は、容易に落とすことのできる染料として、よく下絵に絵の具として使われていたようです。友禅染めの染料として使われたりしました。露草(つゆくさ)・青花(あおばな)は、滋賀県の草津市の特産物らしいですが、血糖値を下げる効果があるようで、コーヒーやお茶、お菓子に使われたりするようです。知人がそういう事業をしています。
ツユクサの自生環境は、道端や野原、畦などで、茎は地面を這います。草丈は15~50cm。開花期は6~9月で1.5 ~2cmほどの青い花をつけます。
単子葉植物で、発芽時の子葉は1枚です。雌しべが1本、雄しべが6本、萼が3枚、花弁は3枚あり、上部に2枚んp青く大きい花がありその下に雄蕊があります。下部の1枚は白く、小さく目立ちにくいようです。通常は茎の先に1つずつ花を咲かせ、時に上下に2つ並んで咲くこともあるようです。ツユクサの花は、舟形の苞に包まれ、その中で蕾が成熟し、花を咲かせます。種は半円形で表面は凸凹しています。
学名: Commelina communis
三つの顔を持つ「雄しべ」の欺瞞
ツユクサの小さな青い花を、ルーペで覗き込んだことはありますか? そこには、昆虫を操るための計算高い「嘘」と「分業」が隠されています。
ツユクサには6本の雄しべがありますが、これらは「三種類」に明確に役割分担されています。
- 「π(パイ)」字型の雄しべ(3本): 上部にあり、鮮やかな黄色で目立ちますが、花粉はほとんど出ません。これは虫を呼び寄せるための「看板(飾り)」です。
- 「人」字型の雄しべ(1本): 中央にあり、虫が着陸するための「足場」や、餌としての少しの花粉を提供します。
- 楕円形の雄しべ(2本): 最も下に隠れるように伸びている地味な雄しべ。これこそが、本物の花粉を大量に持っている「本命」です。
虫が上の派手な看板に気を取られている隙に、下の本命雄しべが虫のお腹に花粉を擦り付ける。華やかな誘惑の裏で行われる、この冷静な実務こそが、彼らの生存戦略の要です。
色が「落ちる」という至高の機能美
通常、染料とは「色が落ちないこと」に価値があります。しかし、ツユクサ(特に変種のオオボウシバナ)から作られる「青花(あおばな)」は、「水で完全に消える」ことこそが最大の価値です。
友禅染などの着物作りにおいて、下絵を描くためのインクとして使われてきました。美しい下絵を描き、その上から本染めを行い、最後に水で洗うと、下絵の青だけがきれいに消えてなくなる。 「跡形もなく消える」という性質が、数百年もの間、日本の伝統工芸の精緻さを支えてきました。存在を主張するのではなく、役割を終えたら潔く消え去る。その引き際の美学は、儚い花の一生そのものです。
「コンメリニン」が描く青の構造
ツユクサのあの吸い込まれるような青色。あれは「コンメリニン」と呼ばれる、非常に複雑な構造をした色素によるものです。
植物学的な奇跡は、その構造の中に「マグネシウム原子」を取り込んでいる点にあります。 通常のアントシアニンは不安定ですぐに分解してしまいますが、ツユクサは色素分子がマグネシウムを囲むように整列し(金属錯体)、さらにフラボンという別の成分がそれを支えることで、あの鮮烈で澄んだ青色を安定させています。自然界が生み出した、ナノレベルの「超分子建築」。あの青は、精密な化学バランスの上に成り立つ奇跡の色なのです。
自分を溶かして抱き合う「最期」
昼下がり、花がしぼむ時の様子を観察してみてください。単に枯れるのではありません。花弁がドロドロに溶けるようにして、丸まっていくのがわかります。
この時、花の中ではドラマチックな「自家受粉」が行われています。 もし午前中に昆虫が来なくて受粉に失敗していても、諦めません。しぼんでいく花弁が、雄しべと雌しべを物理的に巻き込み、強制的に接触させるのです(閉花受粉)。 「他者(虫)との出会いを夢見つつ、叶わなければ自分(自家)で完結させる」。美しく咲くことと、確実に種を残すこと。その両方を成立させるために、彼らは自らの幕引きさえも利用します。
細胞を見るための「透明な窓」
理科の実験で、気孔(きこう)の観察にツユクサの葉を使った記憶がある方も多いでしょう。なぜツユクサなのか。それは、彼らの葉の裏の表皮が、驚くほど簡単に、そしてきれいに剥けるからです。
ペリペリと剥がした透明な薄皮は、顕微鏡下の「窓」となります。そこに並ぶ無数の気孔(唇のような細胞)。植物が呼吸をしているという事実を、これほど鮮明に私たちに見せてくれる植物は他にありません。彼らは、ミクロの世界への入り口を守る門番の役割も果たしているのです。
「万葉」の青は、移ろいの青
『万葉集』において、ツユクサは「月草(つきくさ)」の名で登場します。「着き草(色が着く)」が由来とも言われますが、その色がすぐに褪せてしまうことから、「心変わり」や「儚い恋」の象徴として詠まれました。
「月草の うつろいやすく 思へかも…(露草の色のように、私の心も移ろいやすいとお思いでしょうか)」 現代の化学染料にはない、この「移ろいやすさ」こそが、古代の人々の心に寄り添っていました。永遠ではないからこそ、今この瞬間の青色が愛おしい。ツユクサの青を見ることは、時間の流れそのものを見ることなのかもしれません。
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