一触即発の緊張感や焦燥感から、狼狽してしまうということもありますが、ズレすぎている人に出くわした時の狼狽というものもあります。
言葉遣いなどにやたらに敏感な京都という土地柄では、そうした狼狽に関して他エリアよりも出くわす頻度が高いというようなことを思っています。
20歳くらいのときの対バン相手のお話ですが、事あるごとに言葉尻が京都にそぐわない感じでした。
妙に引っかかる言葉尻
「あ、もう切ってもらっていいですよ」「あ、もう少し音絞ってもらっていいですよ」といった感じで、PAさんに対して逐一何か引っかかるようなフレーズを繰り返していました。もちろん他府県出身の大学生です。
「それのどこが引っかかるんだ?」と思う人もいるでしょうが、京都では異物感が満載です。何様感がしてしまうというやつですね。
また、同時期くらいにラーメン屋に行ったときのことです。
「大の料金払うから、麺は並でスープは大で」ということを言う人がいました。
勝手な推測ながら、原価の高いスープの量はサイズに関わらず一定で、単に麺の量だけで並と大という分類がなされているはずだと僕は思っているのですが、その「アイドルの追っかけしています」系のふくよかなおじさんは、どうもそうは思っていなかったようです。
「えっと…」と狼狽する店員さんに対して、「だから、スープは大で麺は並ね。大の料金払うからね」と繰り返しています。
おそらくツッコんでも良かったのでしょうが、話が通じなさそうな雰囲気もあったので、店員さんは「どうせこの客だけだろうから」と、イレギュラー対応をしていたようでした。
「もしかすると他の店員も同じようにスープ大の対応をしているかもしれないし、『いつもはしてくれている』と突かれても面倒だ」という感じがしました。
おじさんは、轟音でスープを啜りながら「たまらん」とひとりで叫んでいました。
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空気は固まり、誰もが狼狽
そういえば同じくらいの時期、バンドのライブが終わったあと、ライブハウスのスタッフの方が、うちのメンバーに「今日はどうだった?」的なことを声がけされたときのことです。
「いやぁ。とりあえず最初が寒かったっすね。サーフィンズのバッタモンみたいなのが一発目っすから」というようなことを言っていました。
ちなみにサーフィンズではなくサーフィス(surface)なのですが、それはさておき、その言葉を発した彼のその後ろにちょうど当のその方々がいました。
空気は固まり、誰もが狼狽を隠せないという状況になりました。
僕がこっそりアイコンタクトで、彼に知らせると、彼は半笑いで「あ、ああ…」と呟きました。
「いいよ、気にしてないから」という、当のその方の一言で、若干空気は軽くなりましたが、僕がやったことではないにしろ、同じ空間にいるということが気まずく、一刻も早く立ち去りたくて仕方がないという状況になりました。
バンドメンバーの彼は、周りを確認すること無くそんな言葉を平気で吐くことができる、というところから容易にご想像いただける通り、極端に図太く全く気にしていません。
「なんか悪いっすね。この後打ち上げどうですか?」
などと、打ち上げにすら誘っています。
彼以外の全員が、狼狽を隠せないという感じになってしまいました。
ある意味彼には一生勝てないと思った瞬間でもありました。
笑う月(一覧)
彼のように雑さゆえに起こったトラブルや失態で固まった空気を上書きするほどのポジティブな雑さがあればそれはそれで成り立つのかもしれません。しかし世の中には多種多様な人がいるため、想定外のレベルで雑な人の驚くほど雑な行動を垣間見ることがあります。雑な人は、「繊細な人としては理解不能レベル」の「なぜその人が今まで生きてこれたのかが不思議に思えるほどの雑さ」で「驚くほど雑な行動」をすることがよくあります。
狼狽したというよりもパニックになって飛び上がった経験について。
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