かりん

花梨(かりん)

花梨(かりん、榠樝、花櫚)は、バラ科カリン属の落葉高木です。大きく黄色い果実は食用でジャムやかりん酒として利用される他、喉に良いということでのど飴に利用されます。安蘭樹(アンランジュ)とも呼ばれます。1属1種で中国原産です。

かりん

かりん

花期は概ね3月〜5月頃、果実期は10月~11月です。ピンクの花を咲かせます。葉は互生で楕円状卵形~倒卵形。縁に細鋸歯があります。

実が落ちた後の花梨

実が落ちた後の花梨

現在は1属1種ですが、かつてはボケ属に属しており、近縁種としては、ボケやマルメロなどがあります。

花梨の木 落葉後

花梨の木 落葉後

落葉高木ということで落葉後はこんな感じです。

赤星病

なお、花梨はナシやリンゴの仲間のため、梅雨時期に異種寄生菌である赤星病菌がつくことがあるようで葉が落ちてしまい、生育不足からあまり実がつかない、ということが起こったりもするようです。

赤星病菌はイブキなどのビャクシン類とナシ亜連(ナシ属の梨やリンゴ属の林檎など)の果樹の間を、交互に宿主として行き来する菌で、菌がつくと歯の表面に黄~オレンジの斑点がつき、小乗が進むと葉裏に毛が生えて胞子が飛ぶという感じのようです。

花梨の樹皮

花梨の樹皮

花梨の樹皮

花梨の樹皮は迷彩柄で、基本は緑系です。樹皮が剥がれると、その部分は黄緑系になるため迷彩系になります。なお、剥がれた樹皮そのものはオレンジ系のようです。

学名: Pseudocydonia sinensis

拒絶の正体は「石細胞」

芳醇な甘い香りに誘われて、カリンの実を生で齧(かじ)ろうとした勇気ある人は、そのあまりの硬さと、口の中に残るジャリジャリとした不快な食感に驚愕したことでしょう。

このジャリジャリの正体は、「石細胞(せきさいぼう)」と呼ばれる特殊な組織です。細胞壁がリグニンによって厚く木質化したもので、文字通り石のように硬い細胞です。梨(ナシ)にも含まれていますが、カリンのそれは密度が桁違いです。彼らはこの石の鎧(よろい)を纏(まと)うことで、種子が未熟なうちに鳥や動物に食べられてしまうのを防いでいるのです。生食を拒絶するその頑固な態度は、種を守るための鉄壁の防御システムそのものです。

二つの「花梨」のパラドックス

高級家具や三味線の胴、仏壇などに使われる銘木「花梨(カリン)」と、この黄色い実をつける「花梨」は、植物学的には全くの別物です。

家具に使われるのはマメ科の巨木(インドカリンなど)であり、私たちが庭で愛でる果樹はバラ科です。名前が同じであるために混同されがちですが、果樹のカリンの木材もまた、硬く緻密で美しい光沢を持ち、箸や小さなお盆などの工芸品として一級品の価値があります。名前の偶然が生んだ混乱ですが、どちらも「硬く、美しい」という点では共通しており、木の魂としての響き合いを感じます。

樹皮が描く「迷彩」のアート

カリンの魅力は、秋の実だけではありません。樹皮(じゅひ)の美しさにこそ、この樹木の美学が宿っています。

成長するにつれて古い樹皮が不規則に剥がれ落ち、緑、茶、灰色が入り混じった独特の雲紋(うんもん)模様を描き出します。その様子は、百日紅(サルスベリ)にも似ていますが、より重厚で野趣に富んでいます。冬、葉を落とした後の裸木(らぼく)になっても、その幹の模様だけで庭の主役を張れる。着飾らなくとも肌そのものが美しい、稀有な樹木です。

マルメロとの決定的な「肌触り」

よく似た果実「マルメロ」との見分け方に悩む必要はありません。答えは「肌触り」にあります。

マルメロの実には全体に薄い綿毛(うぶげ)が生えており、手触りがマットです。一方、カリンの肌はツルツルとしており、熟すと油分が滲み出てベタつくほどの艶(つや)を持ちます。また、切った時の断面を見れば、実の中心に種が整列しているのがカリン、散らばっているのがマルメロという違いもあります。似て非なるもの。それぞれが異なる進化の過程で手に入れた「肌の質感」を指先で確かめるのも、秋の愉しみの一つです。

部屋を変える「天然のディフューザー」

カリンの香りは、食べるためだけのものではありません。その揮発性の芳香成分(エチルヘキサノエートなど)は極めて強力で、熟した実を一つ部屋に置いておくだけで、どんな高級なルームフレグランスをも凌駕する香りが充満します。

玄関や車の中に、ゴロリと転がしておく。ただそれだけで、空間の質が劇的に変わります。腐る直前まで香りを放ち続けるその持久力は、植物が私たちに対して「ここにいる」と訴えかける、音のない叫びのようにも感じられます。

加熱が引き出す「紅(あか)」の魔法

生では淡い黄色をしているカリンの果肉ですが、砂糖や蜂蜜に漬け込んだり、熱を加えたりすると、鮮やかな赤色(茜色)に変化します。

これは果肉に含まれるポリフェノールの一種(プロシアニジン)が、加熱や酸化によって化学変化を起こすためです。黄色い実から、ルビーのような赤い液体が抽出されるこの工程は、何度見ても魔法のようです。のど飴やカリン酒のあの美しい赤色は、着色料ではなく、カリン自身が秘めていた情熱の色なのです。

バラ科

Category:植物

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