プロスペクト理論(Prospect theory)とは、損失回避の法則であり、同一の量の変化であっても儲かるときより損失を出す時の方が感覚が強くいわば喜びよりも「痛み」が強いため、それを回避しようとする心理のこと。不確実性下における意思決定モデルの一つである。利益を得る喜びよりも損失を被る際の苦痛の大きいことから損失を回避しようとする損失回避性の他、絶対値よりも相対値・変化率を重視する参照点依存性、損得の絶対値が大きくなるほど反応が鈍っていく感応度逓減性といった要素がある。
損失回避性
投資の心理としてよく語られているが、100万円をもらうことを放棄するか、もしくは100万円の損失を出すかといった場合において、「損失を出す方」場合の痛みと比較して、手に入ることを放棄する方が気楽だという心理を意味する。
現状にプラスされる形で手に入る100万円の喜びよりも、現状から100万円奪われていくほうが、心理的に苦しいということを示す。
数量の変化としては同じであるにもかかわらず、損失という概念への痛みのほうが大きいという一種の錯覚を示すのがプロスペクト理論である。
投資においては、同一金額の「差益」よりも「差損」の方に痛みを感じ「損失を確定させることに痛みを感じるため損切ができない」ということに表れる。
プロスペクト理論は、確率に対する反応の仕方が人によって異なるという点ならびにお金等々富の「変化量」から効用を感じるという二種の認知バイアスが取り入れられており、確率における最適な選択、最適な解よりも実際の人の行動選択としてどのようなものが採用されやすいかというリアルな面に着目している。
日常におけるプロスペクト理論
こうしたプロスペクト理論は、ファイナンスにおいて昔から感覚的に知られていたことであり、手元にある現金が奪われていくのは必死で拒む割に、自分に請求権のあるものを放棄する場合はそれほど拒まないということを裏付けるような理論である。
日常においてもプロスペクト理論はよく働いていて、同一の額であっても、獲得する場合の喜びよりも損失が出る時の痛みの方が強く、この心理的傾向はいたるところで見られる。
例えば、「損害賠償として100万円払え」という場合は必死で拒むが、「100万円の売掛金の貸し倒れ」の場合は諦めが生じやすいという感じである。
自分が貰う予定だった100万円を諦める場合と、100万円を支払わなければならないというケースを比較した場合、共に「100万円の損失」、「資産から100万円がマイナスになる」ということには変わりないが、現状手元にある自分のお金が出ていくということの方により強い痛みを感じ、現状請求する権利のみであり手元に無いお金が、やはりやってこないという場合は、比較的痛みがマシだったりもする。
損失や支払いの痛み
プロスペクト理論は、心理的には100万円支払った痛みを100万円もらうことで帳消しにはできないということを示唆する。
直接的ではないが、こうした心理の働きは、源泉徴収という仕組みなどでも応用されている。
一度に大きなお金を支払えと言われた場合には大きな痛みが生じるが、天引きされていれば「痛み」としてはそれが和らぎ、場合によっては還付されてお金が戻ってくるため「得をした」という錯覚を抱きやすいからという点も併せ持っている。
それが直接的な現金払いであれば、おそらく様子は異なっていただろうということが推測される。
プロスペクト理論の克服「痛み」に惑わされないようにするために
プロスペクト理論からみる意思決定における心の動きを捉えた場合、獲得する利益の喜びより損失の方に「痛み」を感じてしまい損切ができなかったり、請求権を諦めたりということが起こりうるということになる。
しかし、結局実質的な資産はそうした痛み云々ではなく総量で決まるはずなので、喜びや痛みに惑わされず、実質的で理性的な判断ができるようになった方がトータルで得なのは明らかである。
心理的な痛みの感覚ではあるが、プロスペクト理論の「痛み」に惑わされると実質的な確率からは遠ざかってしまうため、経済活動においてはそうした心の動きを克服しておくに越したことはない。
こうしたプロスペクト理論における「痛みの大きさ」に惑わされないようにするためには、「プロスペクト理論が働いている」ということに気づくことと、実質的な数量の変化を平常心で考えることと、中長期的な視野で物事を考えることが有効的である。
目の前の出来事に対する短期的な感情を基準とするのではなく、長期スパンで物事を考えていれば、合理的な判断ができるようになるだろう。
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