
藪蘭(ヤブラン)
藪蘭(ヤブラン)は、キジカクシ科スズラン亜科ヤブラン属に属する常緑性多年草で開花期は7月・8月から10月くらいです。
耐寒性・耐暑性共に強いため育てやすく、水さえ欠かさなければ基本的に放置していてもキレイに花をつけます。我が家でも藪蘭(ヤブラン)は屋外で野性的に育てています。

藪蘭(ヤブラン)
藪蘭(ヤブラン)は、学名から「リリオペ」とも呼ばれたりします。また山菅(ヤマスゲ)や、サマームスカリといった呼ばれ方もするようです。ヤブに生えながら葉の形がランに似ているのでヤブランと呼ばれるようになったようです。
藪蘭(ヤブラン)の花
藪蘭(ヤブラン)の花です。葉の間から30~50cm程度の花茎を出して、紫色の小さな花を大量につけます。紫の中に微かに黄色が見えるところが粋です。その後艷やかな黒い種子をつけます。果皮が薄いため熟す前に乾燥して落ちて種子がむき出しになります。種子は最初は緑ですがどんどん黒くなっていきます。
藪蘭(ヤブラン)の葉
藪蘭(ヤブラン)の葉です。長さは30~60cmで細長い葉をしています。品種によって異なると思いますが、こうした緑と白で構成される柄が結構好きだったりします。
学名:Liriope muscari
「リリオペ」が流した涙の記憶
学名 Liriope(リリオペ)は、ギリシャ神話に登場する森の妖精(ニンフ)の名に由来します。彼女は、自分の姿に恋をして死んでしまった美少年ナルキッソスの母です。
息子を失った母の悲しみ。その涙が落ちた場所から生えてきた草だという伝説があります。薄暗い木陰で、うつむき加減に咲く紫色の花を見ていると、華やかさの中にも拭いきれない憂いを感じるのは、その神話が持つ引力のせいかもしれません。日向を避けるように咲く姿は、世間の喧騒から離れ、静かに喪に服す母の祈りのようでもあります。
地下に埋設された「貯水タンク」
ヤブランがなぜ、これほどまでに乾燥に強く、一度根付いたら放置しても枯れないのか。その秘密は、土を掘り返してみなければ分かりません。
ひげ根の所々に、ピーナッツのような形をした膨らみがあることに気づくはずです。これは「塊根(かいこん)」と呼ばれる組織で、水分と養分を蓄えるための貯蔵庫です。彼らは雨が降った時にこのタンクを満たし、日照りが続くとそこから少しずつ水分を使って生き延びます。地上部がどんなに涼しげに見えても、地下では常に最悪の事態(干ばつ)を想定して備蓄を行っている。その慎重さこそが、最強のグランドカバーと呼ばれる所以です。
「麦門冬」を巡るジャノヒゲとの境界線
漢方医学において、滋養強壮や咳止めに使われる重要な生薬に「麦門冬(ばくもんどう)」があります。一般的には近縁種の「ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)」の根を指しますが、実はこのヤブランの根も「大葉麦門冬(だいようばくもんどう)」として同様に扱われることがあります。
両者は明確に異なります。ジャノヒゲの実が鮮やかなコバルトブルーであるのに対し、ヤブランの実は深い漆黒(ブラックパール)へと熟します。しかし、薬効という点においては、どちらも体の乾燥を潤し、熱を冷ますという共通の力を持っています。足元にある雑草だと思っていたものが、実は肺を潤す特効薬かもしれない。知識は風景の意味を変えるレンズです。
緑から黒へ、宝石の変遷
花が終わった後の楽しみは、実の色の変化にあります。最初は硬く青臭い緑色をしていますが、秋が深まるにつれて、艶のある深い黒色へと変化します。
この黒い実は、鳥たちにとってはご馳走です。しかし、地面に近い低い位置にあるため、空を飛ぶ鳥よりは、地面を歩き回るツグミやシロハラといった鳥たちに見つけてもらうのを待っています。派手にアピールせず、目線を低くして、気づいてくれる相手だけを待つ。その静かなる生存戦略は、私たちに「待つこと」の美学を教えてくれます。
「斑入り」が求める光のバランス
園芸店で人気があるのは、葉に白や黄色のラインが入った「斑入り(ふいり)」品種です。確かに明るく美しいですが、植物生理学的には、斑の部分は葉緑素が欠落している「弱点」でもあります。
光合成をする力が弱い分、彼らは緑葉の品種よりも少しだけ多くの光を必要とします。完全な日陰(シェード)に植えると、光合成不足を補おうとして斑が消え、緑色に戻ろうとする「先祖返り」を起こすことがあります。あるいは、徒長してひょろひょろと伸びてしまうことも。美しさを保つためには、木漏れ日程度の優しい光を計算してあげる必要があります。それは、才能ある者が持つ繊細さをケアするような作業です。
葉を切る「春の儀式」
一年中美しい常緑のヤブランですが、春先に新芽が出る直前、ボロボロになった古い葉を根元からバッサリと切り落とす作業(カットオーバー)をお勧めします。
一見残酷に見えますが、これを行うことで、新しく出てくる芽が光を浴びやすくなり、春から夏にかけて驚くほど瑞々しく美しい葉が揃います。過去の栄光(古い葉)にしがみつかず、一度ゼロにしてリセットする。その潔さが、次の季節の美しさを約束します。植物も人間も、更新のためには痛みを伴う決断が必要です。
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