介護や育児というものは疲弊すると言われています。普通に考えるとその通りです。
しかしながらそうした疲弊をできるだけ低減させるということは可能です。そのためにはリテラシーが必要になります。
疲弊している人としては、「他の家族にやってもらう」という発想をしがちですが、それ以外の方法も実は無数にあったりします。
また、リテラシーが不足しているために、様々なことを諦めるということも起こり得ます。
リソース不足を感じ、出産を諦めたり、介護のために仕事の継続を諦めたりというようなことが起こり得るわけです。
本来は、素人である人達に対して専門家である人たちが、適切な道しるべを与えるべきですが、専門家とはいえ自分が普段やっているやり方以外は見えずに適切な判断や助言ができていないということも往々にしてあります。
既に事が起こっている場合もそうですが、出産等々に関しては、男女ともに婚姻前から様々な情報を集めて整理することで、「自分の今の環境では色々と難しい」という抵抗を取り除くこともできるようになるかもしれません。
そして最も問題なのが、行政等々そうした専門分野にいる人達、医療や介護に関わる人達のリテラシーが低い場合、「専門家がそう言っているのだから仕方がない」と、「諦めかけて相談したが、やはり無理なようだ」という二重の諦めをもたらす最悪の結果を招くことになります。
介護に関するリテラシー
ということで、最近の経験でも書いていきましょう。
母は現在1級の障害者手帳が交付される程度の要介護状態です。
母本人の自宅介護の希望と、「施設入所の場合はリハビリもなく、残りの人生を廃人のように扱われる」というイメージから、自宅介護の一択でした。
そんな中、病院から退院する時にカンファレンスのようなものがありました。
「色々と大変です」
ケアマネジャーはそんな事を言っていました。
「無理をすると潰れる」
そうしたことを聞いている時の弟の顔を忘れることができません(弟は両親と同居しています)。
悲しみとやる気と不安と、母への思いと人生の希望が曇ったような感じと、いろいろなものが混じっていました。
そんな中、介護事業者にいろいろと引き継ぎを行うような病院の担当の人の顔も忘れられません。
「自分は知ったこっちゃない」
確かにもうしばらくすれば、その人は関わりがなくなります。
もっとはっきり言えば、実際は次のようなことを思っているような
「後先のないこの人に大勢の人間が関わって手をかけてどうする」
確かに、他人が見ればそうでしょう。もちろん表面的にはそんなことはおくびにも出しません。
それが赤ん坊なら、育児が大変であっても、未来への希望のようなものを想像することが容易いというのはわかります。
しかしながら、例えば母には、僕の娘から見て「おばあちゃん」という一種の役割があります。
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そして実際に自宅介護が始まりました。
様々なトラブルもありました。
母の体調も精神状態も乱れに乱れました。
弟はケアプランの合間を縫ってしか仕事に行けない状態になりました。
夜間の中途覚醒もあり、弟はまさに潰れる寸前でした。
何度もケアマネジャー等に相談し、「道しるべを」とお願いしました。
(ここからは少し専門的になります)
「居宅介護支援」と「重度訪問介護」
ところが、弟が調べていくと、母の状態においては、現在利用している「居宅介護支援」という制度だけではなく「重度訪問介護」を利用することができるということがわかりました。
「居宅介護支援」と「重度訪問介護」では、受けられるケアサービスの利用時間が全く違います
(なお、これらは根拠法も制度も全く異なります。「居宅介護支援」は介護保険法に基づき、介護保険を利用する一般的な介護サービスであり、「重度訪問介護」は障害者総合支援法に基づいた障害福祉サービスとなります)
それで、その旨をケアマネジャーに伝えたようですが、話が全く進みません。
なぜならそのケアマネジャーは「重度訪問介護」という制度そのものを知らず、普段自分が取り扱っている「居宅介護」の知識しかないため、ゼロスタートだったためです。
しかしそれはケアマネジャーが所属している法人にも問題があります。現場レベルの担当者の力量を超えているのであれば、それに対応できる上司なりなんなりが早急にサポートすべきです。
結局弟は、市の担当の方に出向き、ケアマネジャーを通さずに「重度訪問介護」の申請をしました。
ケアマネジャーは、「居宅介護で始めて、その後無理そうなら重度訪問介護をという段階を踏んで…」ということを言ってきたそうですが、市の担当に確認すると「そのような段階を踏む必要はありません」という回答が来ました。
「いつから利用できますか?」
「ケアプランさえあれば明日からでも」
それが市の担当の答えでした。
しかしながら通常、家族が直接的に関わる専門家としては、このケアマネジャーです。
弟に情報リテラシーがなければ、ケアマネジャーの無知と能力の低さ、そしてそれをカバーすることのない組織のあり方のせいで「泣き寝入り」になっていたかもしれません。
僕も弟も父も、ケアマネジャーに何度も相談はしています。
しかし、結局は、弟が自力で道を開いたという結果になりました。
本来は、専門家であるケアマネジャーなりが、こちらに提示してくるような形でなければならないと思いますが、実態としては今回のような感じになっています。
これは介護だけの問題ではなく、行政が関わるような様々な分野で同じようなことが起こっていると思います。
本当に相手のことを思ったのなら、自分の力量を超えているとしても、それをなんとかしてくれる人にサポートしてもらう等のことを思いつくはずです。
弟は本当に母のことを思って、そして自分自身のことも、僕のことも、父のことをも思っているからこそ、頭をフル回転させて情報の収集から解決までのプロセスを見つけたということです。
出産や育児に関するリテラシー
次に出産や育児に関するリテラシーについてですが、一応僕は娘が生まれる前に出産や育児に関する書籍を20冊か30冊程度読んだりしました。
それでも実際の経験とはまた違うため、それだけで完結するとは思っていませんでした。ただ、一応知っておくに越したことはありません。
なぜそんなことをするかというと、おそらく起業を経験しているからです。
勉強というと、暗記中心で「勉め強いるもの」という印象が強いですが、学習というものは、元々何かを達成するための材料集めであったり、「いざというときのパニックを予防するため」というような性質があります。
ということを裏返すと、「学習することが面倒くさい」のではなく、「学習しておかないと後々もっと面倒くさくなる」ということです。
と、やや脱線しましたが、出産や育児に関する点において、何かしらの不安要因を「漠然とした不安のまま」にしておくと、後で困ることになります。
また人によっては、そうした点をクリアにしておかないからこそ「無理だ」となって、諦めたりすることもあるはずです。
特に金銭面や生活サポート面で言えば、出産や育児関連も様々な制度があります。
こうしたものは「請求なければ給付なし」という原則があります。
では、そういう制度を一から十まで誰かが教えてくれるのかといえば、答えはノーです。「こういう制度がありますよ」と言ってくれるかどうかは運しだいのようなところがあります。
僕としては、元々「全部一人でできるようになっておく」という前提で情報収集や実際の経験をしたりしました。
そして、「様々な制度を利用しなくてもできる」という状況であっても、「利用して余裕を作る」ということを意識しました。
なぜなら、出産や育児に対して「僕が動けなくなる」という状況、最悪は僕が亡くなるという状況すら想定できるわけです。
逆に妻やその他家族においても同様です。いつどのような状態になるかはわかりません。
「周りの支えがあってようやく成り立つ」ではリスクに対してヘッジが甘いという感じになります。
雇用保険未加入における「育児休業給付」
零細企業においては、雇用保険が曖昧になっている場合があります。そうなると「育児休業給付金」が受け取れないケースが出てきます。
「育児休業給付金」を受け取るためには雇用保険の加入期間が1年以上必要になりますが、実態として零細企業や個人事業主等においては、そこで働いている従業員さんが本来加入すべき雇用保険に入っていないという杜撰な企業もあります。
では、自分の勤める会社が、雇用保険加入手続きを怠っていた場合、「育児休業給付金」を諦めなければならないのか、というとそうでもありません。
雇用保険料を遡って1年分以上払えば、「育児休業給付金」を受け取ることができます。会社に言ってもダメなら、公共職業安定所(ハローワーク)に直接行けば大丈夫です。
一応受給要件としては、育児休業開始日前2年間に、被保険者期間が通算して12ヵ月以上という感じになっています。なお、2022年4月1日から「育児休業申請時点で同じ企業に1年以上雇用されていること」という条件は撤廃されています。
まあ育児休業は男性でも取得できます。「全部妻に任せよう」などと余裕をかましていないで、使える制度はどんどん利用するという感じでも良いと思います。
(ちなみに僕は役員・代表取締役であるため雇用保険に入れず育児休業は取得していません)
地域によりますが、行政による低料金の家事代行サービス等生活サポートもあります。
介護や育児の道しるべ
介護によって何かを諦めるとか、金融資産や家族状況等の生活基盤から考えて出産・育児を諦めるとか、そうしたことがない世の中を願っています。
また、少し手前段階から考えると、本心では出産・育児を望んでいるにも関わらず、出産・育児を諦めているから結婚しないというような諦めも無くなって欲しいと思っています。
またもちろん、親が育児に疲弊し、子どもが傷つけられたり、どちらかがパンクして夫婦が破綻というようなことも回避すべきことです。
不完全な部分も多々ありますが、利用できる制度は探せばたくさんあります。
そこで注意していただきたいのが、「専門家に相談したが、どうにもできないと言われた」ということから、「諦めかけてさらに諦める」というような状況です。
その専門家には見えていない解決策があるかもしれません。
本来は、すべてを包括して最適な道しるべを提示できるような専門家がいることが理想です。
各分野に限っても、専門家でありながら頼りない場合も多々あります。
周りに相談していくということも重要ですが、自学自習によって知識とリテラシーを高めることは、自分自身を救います。
一番大切なのは、「大切に思うものを大切にすること」を「諦めない気持ち」です。
ただ、気持ちだけ持っても状況が動かない場合はよくあります。
その気持ちを「知識とリテラシーを高めること」に向けてみてください。
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