風船葛(ふうせんかずら)は、ムクロジ科フウセンカズラ属のつる性一年草です。
白く小さい花をつけます。切れ込みのある葉の中にぶらんぶらんと垂れ下がった丸く膨らんだ果実が特徴的であり、またハートのマークがついた種子も印象的です。バルーンバインやハートピーと呼ばれることもあるようです。
風船葛(ふうせんかずら)の実
風船葛(ふうせんかずら)の実は、その名の通り風船状にぷっくりと大きく膨らみます。色は緑色ですが、枯れて茶色くなります。
風船状に膨らむとは言いつつも形状的にはやや逆ハート型。イラストで描かれる桃太郎の桃系でもありながら、裏返すとどこかしらニコちゃん大王を感じる形状となっています。
風船葛(ふうせんかずら)の花
風船葛(ふうせんかずら)の花は小さく5mm程度です。白色で巻きヒゲが脇に沿うような感じになります。
風船葛(ふうせんかずら)の葉

風船葛(ふうせんかずら)の葉
風船葛(ふうせんかずら)の葉は切り込みのある三出複葉です。
風船葛(ふうせんかずら)の種子

風船葛(ふうせんかずら)の種子
風船葛(ふうせんかずら)の種子は、球型で黒ベースの中に白のハートマークが付きます。
学名:Cardiospermum halicacabum
学名が語る「心臓の種」
フウセンカズラの種にある、あの愛らしいハート模様。あれは単なる偶然の産物ではありません。学名 Cardiospermum(カルディオスペルマム)は、ギリシャ語の「Cardio(心臓)」と「Spermum(種子)」を組み合わせた言葉です。
つまり、世界中の植物学者が、この植物の本質を「ハートの種を持つもの」と定義しているのです。あの白いハート部分は、専門的には「種枕(しゅちん)」や「へそ」と呼ばれる部分で、種が胎座(たいざ)にくっついていた痕跡です。人間で言えばおへその跡が、完璧なハート型を描く。植物という他者が、私たち人間に向けて密かなラブレターを送ってくれているようで、種採りの時間が特別なものに感じられます。
「空っぽ」であることの戦略
熟した茶色い実を指で押すと、パリルッと乾いた音を立てて割れます。中には空気と、わずかな種だけ。なぜ彼らは、果肉で種を守るのではなく、空気を纏(まと)うことを選んだのでしょうか。
それは「水」と「風」を味方につけるためです。この風船は、風に乗って転がるための車輪であり、同時に、洪水などで水に流された際に浮き袋となる「救命ボート」でもあります。果肉を作るエネルギーを節約し、代わりに「空間」を作ることで、軽やかに移動する自由を手に入れた。持たないこと(空洞であること)こそが、彼らにとって最強の防御であり、移動手段なのです。
手のひらの上の「猿」とパレイドリア
黒地に白いハート模様の種。これを逆さまにして、じっと見つめてみてください。白い部分が顔、黒い部分が頭巾(ずきん)に見え、まるで「猿の顔」のように見えてきませんか?
人間の脳には、無秩序な点や線の中に顔を見出す「パレイドリア効果」という機能がありますが、フウセンカズラの種はまさにその典型です。日本ではこの姿から、縁起の良い「苦難が去る(猿)」お守りとして、財布に入れて持ち歩く人もいます。また、地域によっては「お猿さんの学校」といって子供たちが集める遊びもあります。小さな黒い粒の中に、愛とユーモアが同居しています。
緑のカーテンが奏でる「音」の涼
ゴーヤやアサガオのグリーンカーテンと、フウセンカズラのそれには決定的な違いがあります。それは「遮光性」ではなく「透過性」と「音」です。
フウセンカズラの葉は薄く繊細で、切れ込みが深いため、光を完全に遮断するのではなく、柔らかな木漏れ日(komorebi)を作ります。そして秋になり、実が茶色く枯れてくると、風が吹くたびにカサカサと乾いた音が鳴ります。それは自然が奏でるパーカッションであり、耳で感じる秋の涼しさです。視覚だけでなく、聴覚でも季節の移ろいを教えてくれる、五感に優しいカーテンといえるでしょう。
ムクロジ科としての「泡立つ」血統
分類学上、フウセンカズラは「ムクロジ科」に属します。ムクロジといえば、その果皮が天然の石鹸として使われてきたことで有名です。
実は、フウセンカズラの生の葉や茎にも、石鹸成分である「サポニン」が含まれています。水の中で葉を強く揉むと、わずかですが泡立ちます。もちろん現代の洗剤のようにはいきませんが、かつての人々が植物の中に「汚れを落とす力」を見出した、その系譜に連なる植物なのです。ただし、サポニンには微弱な毒性(魚毒性など)もあるため、ペットが大量に食べたりしないよう、少しだけ注意を払う必要があります。
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