エノコログサ(狗尾草)は、イネ科キビ亜科エノコログサ属の一年草です。至るところに自生しており、すぐに見つけることができる野草です。「犬っころ草」からエノコログサという名称になったようですが、僕としては「ねこじゃらし」という俗名の方に馴染みがあります。まあこのエノコログサで「猫をじゃらす」という感じです。

エノコログサ(ねこじゃらし)2
五穀のひとつ「粟(あわ)」の原種とされるエノコログサ。粟もイネ科エノコログサ属です。食糧難の頃は食されたりもしたようです。

エノコログサ(ねこじゃらし)
エノコログサ(ねこじゃらし)は、至るところに生えており、世界中に分布しています。
「猫じゃらし」の方が馴染み深いエノコログサ
漢字では「狗尾草」ということで、犬の尾に似ているという感じですが、そうした風貌よりも「猫じゃらし」の印象のほうが強いエノコログサ。
まあ確かに形状としては犬の尻尾っぽく、犬の尾から「犬っころ草」、「エノコログサ」という変化があり最終的に「狗尾草」という名称になったというのはわかりますが、それもそれで俗っぽいところから名前がついている感じがしますね。
個人的にはやはり幼少期から「猫じゃらし」と呼び続けていたため、結局猫じゃらしと呼んでしまいます。

エノコログサ(ねこじゃらし)4
誰しもが一度はわさわさしたことがあるであろう馴染み深い野草です。
学名:Setaria viridis
「雑草」という仮面を被った「古代の主食」
道端で風に揺れるその姿を、私たちは「ただの雑草」として見過ごしがちです。しかし、エノコログサのDNAには、人類を支えてきた偉大な記憶が刻まれています。実は、彼は五穀の一つである「粟(アワ)」の原種(ワイルド・アンセスター)なのです。
数千年前の縄文人たちは、このエノコログサの中から実の大きな個体を選抜し、長い時間をかけて現在のアワへと改良しました。つまり、猫じゃらしの穂についている小さな粒は、手間さえ惜しまなければ、アワと同じように香ばしく、栄養価の高い穀物として食べることができるのです。現代の私たちは、飢饉を救うポテンシャルを持った「野生の穀倉」の上を、何も知らずに歩いていることになります。
犬の子か、猫の友か
一般的には「ねこじゃらし」という愛称で親しまれていますが、正式名称の「エノコログサ」は「犬の子草(いぬのこぐさ)」が転じたものです。ふさふさとした穂が、子犬の尻尾に似ていることから名付けられました。
犬の尻尾に見立てられた草が、現代では猫を喜ばせる最高のおもちゃになっているというのは、なんとも皮肉で微笑ましい話です。しかし、あの穂の動きは単なる遊び道具以上の意味を持っています。風になびく予測不能な動きは、小動物や昆虫の動きを模倣しており、猫の狩猟本能をダイレクトに刺激する「生物学的なルアー(疑似餌)」として機能しているのです。
手のひらを登る「ラチェット機構」
エノコログサの穂を逆さに握って、手を握ったり開いたりすると、穂がまるで生き物のように手首の方へと這い上がってくる遊びをしたことはありませんか? これは奇術ではなく、極めて精巧な物理学です。
穂にある無数の剛毛(芒)には、目に見えないレベルで「逆向きのトゲ」がびっしりと生えています。この構造は、一方通行の動きしか許さない「ラチェット機構」と同じ働きをします。何かに接触するたびに、トゲが引っかかり、前へ前へと推進する力が生まれるのです。この機能は、本来は動物の毛皮に絡みつき、種子を遠くへ運ぶために進化した移動システムです。私たちは遊びながら、彼らの旅の手助けをする練習台にされているのかもしれません。
太陽を独占する「C4エンジン」
真夏の炎天下、多くのアジサイや野菜が葉を垂れてぐったりしている横で、エノコログサだけが青々と、むしろ嬉々として成長しているのを見たことがあるでしょう。彼らは暑さに強い「C4植物」という特殊なグループに属しています。
通常の植物(C3植物)は、暑すぎると光合成を休みますが、エノコログサは体内に二酸化炭素を濃縮する特殊なポンプを持っています。これにより、気孔を閉じたままでも効率よく光合成を行い、強烈な太陽光をエネルギーに変えることができます。あふれる日差しをすべて味方につける、高効率なターボエンジン。夏枯れを知らないその強さは、この進化した体内メカニズムによって支えられています。
金と紫、色の変異が語る個性
注意深く観察すると、エノコログサには「色」のバリエーションがあることに気づきます。穂が黄金色に輝く「キンエノコロ」、紫がかった「ムラサキエノコロ」。これらは単なる個体差ではなく、それぞれが微妙に異なる環境への適応を見せた結果です。
特にキンエノコロの輝きは、夕陽を受けた時に神々しいほどの美しさを放ちます。雑草というフィルターを外してその穂を眺めるとき、そこには園芸品種にも劣らない、野生の造形美が存在していることに気づくはずです。
イネ科
- イネ科ススキ属 芒(すすき)尾花(おばな)
- イネ科チガヤ属 白茅(ちがや)
- イネ科ヨシ属 葦(ヨシ、アシ)
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