アッツ桜(あっつざくら・ロードヒポキシス)はキンバイザサ科ロードヒポキシス属の植物です(学名はRhodohypoxis baurii)。
南アフリカ原産(南アフリカ共和国ドラケンスバーグ山脈周辺の高原のようです)の半耐寒性球根植物になります。なお、ロドヒポキシスと表記されることもあります。
花は星形の6弁花で、葉には軟毛があります。春植えの球根植物です。
アッツ桜(ロードヒポキシス)の花

アッツ桜(ロードヒポキシス)
アッツ桜の開花時期は春から初夏くらいと言うことで、このアッツ桜は4月末頃~5月に開花しています(地域によって変わると思いますので4月から6月くらいでしょう)。花は6弁で星形です。
ロードヒポキシス(Rhodohypoxis)は濃ピンクですので、このアッツ桜(ロードヒポキシス)は変種・改良種ということになりましょう(ロードヒポキシス属=アッツザクラ属は一属一種のため)。
アッツ桜の名称
なお、アッツ桜は和名の俗称のようなものであり、和名の由来は「アッツ島(アラスカ州アリューシャン列島ニア諸島)」から来ているというのが有力のようです。が、アッツ桜はもちろん極寒のアラスカではなく南アフリカ原産のため、その島の植物というわけではありません。
スジャータの新・誕生花シリーズによると、アッツ桜は1月23日の花で花言葉は「無意識」ということのようです。
学名:Rhodohypoxis baurii
「アッツ島」には咲かない花
まず、植物史における最大の皮肉について語らねばなりません。この花の名前は、太平洋戦争の激戦地「アッツ島」に由来しますが、実際にはアッツ島にこの花は一輪も咲いていません。
アッツ桜の故郷は、北極圏に近いアッツ島とは正反対の、南アフリカ共和国にあるドラケンスバーグ山脈です。標高2000メートル級の、霧深い草原に自生しています。日本に入ってきた時期が、ちょうどアッツ島での戦局が報じられていた頃だったため、人々の関心を引くために商売上の理由でこの名が付けられました。可憐なピンクの花に、戦争の記憶と、全く異なる土地の名前が背負わされている。名前と実体が乖離したまま定着してしまった、数奇な運命を持つ植物です。
「喉(のど)」を閉ざす秘密主義
アッツ桜の花を正面から覗き込んでみてください。一般的な花なら見えるはずの「雄しべ」や「雌しべ」が見当たらないことに気づくでしょう。
これは、内側の3枚の花弁(正確には内花被片)が中央で立ち上がり、さらに内側に折り込まれることで、花の「喉」を完全に塞いでいるからです。まるで、大切なものを誰にも見せたくないかのような、頑なな拒絶の姿勢です。この閉ざされた扉をこじ開けて中に入ることができるのは、現地に生息する特定の小さな昆虫だけです。誰にでも愛想を振りまくのではなく、選ばれたパートナーだけを招き入れる。その排他的な構造こそが、この花の神秘性を高めています。
乾燥から身を守る「繊維の鎧」
冬、地上部が枯れた後に土を掘り返すと、アッツ桜の球根(塊茎)が現れます。それはツルッとした球根ではなく、茶色い毛のような繊維でびっしりと覆われた、毛玉のような姿をしています。
この繊維は、古い葉の付け根が分解されずに残ったものです。この「毛のコート」が、乾燥の激しい南アフリカの乾季において、内部の水分が蒸発するのを防ぎ、同時に急激な温度変化から身を守る断熱材の役割を果たしています。地上での可憐な姿とは対照的な、地下での野生味あふれる武装。このギャップにこそ、彼らの生き抜く力が宿っています。
霧の記憶と水のコントロール
栽培の極意は、彼らの故郷である「霧の山」を再現することにあります。
生育期である春から夏にかけては、霧の中にいるかのように十分な湿り気を好みます。ここで水を切らすと、すぐに花が止まってしまいます。しかし、決して水没させてはいけません。水はけの良い土で、新鮮な水が常に通り抜けていく状態。そして冬は一転して、カラカラに乾いた地面で眠ります。日本の冬に水をやりすぎると、あの毛皮のような球根が腐ってしまいます。「夏はたっぷりと、冬は忘れる」。このメリハリこそが、翌年も花を咲かせる鍵です。
禁断の交配「ロードックス」
アッツ桜(ロードヒポキシス属)には、非常に近い親戚である「コキンバイザサ(ヒポキシス属)」という植物が存在します。植物学的に異なる属同士ですが、これらを交配させて生まれた「ロードックス(Rhodoxis)」というハイブリッド種が存在することをご存知でしょうか。
アッツ桜の豊富な色彩と、コキンバイザサの強健さや開花期間の長さを併せ持つ、まさに「いいとこ取り」のサラブレッドです。自然界では交わるはずのなかった二者が、人間の手によって出会い、新しい美しさを生み出す。園芸の世界には、こうした種の壁を超えたロマンが広がっています。
花弁の「数」が語る倍数性
通常のアッツ桜は6枚の花弁を持っていますが、時折、花弁の数が多い個体や、花が一回り大きい巨大な個体を見かけることがあります。
これらは「倍数体(ばいすうたい)」である可能性があります。染色体の数が通常の2倍(四倍体)になった変異種です。植物において染色体が増えると、器官が巨大化したり、色が濃くなったりする傾向があります。小さな鉢の中で起こっている遺伝子の重複と変異。そのわずかな変化を見逃さない観察眼があれば、この小さな花の楽しみ方は無限に広がります。
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