嵯峨菊(学名:Chrysanthemum grandiflorum cv.Saga)は、古典観賞菊のひとつ、かつ、日本三大名菊のひとつで、もちろんキク科キク属多年草の菊の一種です。
嵯峨菊(さがぎく)の名の通り、かつての嵯峨御所である大覚寺で品種改良された菊です。元祖京都ブランドという感じでしょうか。糸状の細長い管弁に細い茎が特徴です。
正式な嵯峨菊の仕立て方としては、「高さ2メートルになるように3本を一鉢の中に寄せ植えして、花を先端から下部にかけて3・5・7輪と咲かせ、葉は春夏秋冬を表すように仕立る」ということになるようです。
大沢池の野菊
嵯峨菊は大覚寺の大沢池の菊ヶ島に自生していた野菊が元祖ということのようです。ということで、ついでなので大沢池です。
左奥の大きい方は広沢池で、右側の赤っぽい塔がある場所の奥にちらっとあるのが大沢池です。ちなみに人工の庭池としては日本最古となるようです。

嵯峨菊
「七五三」に秘められた建築学
嵯峨菊を語る上で避けて通れないのが、大覚寺発祥の伝統技法である「七五三仕立て」です。これは単に花を7輪、5輪、3輪と咲かせるだけの数合わせではありません。
下から順に、葉の緑を7、中段を5、上段を3の比率で見せつつ、頂点に向かって細くなっていくその姿は、一株の菊の中に「完璧な三角形の山」あるいは「座禅を組む貴人」のシルエットを構築するための厳格な建築様式です。 一鉢の中に宇宙(天地人)を表現する。そのために、栽培家は夏の間から脇芽をミリ単位で調整し、数ヶ月かけてこの生きた彫刻を完成させます。鑑賞する際は、花だけでなく、その計算され尽くした葉の配置(グリーンの階層)にこそ、職人の矜持を見て取ってください。
重力を嘲笑(あざわら)う「糸」の構造
一般的な菊の花弁が放射状に広がるのに対し、嵯峨菊の花弁は、まるで重力を無視するかのように、垂直に立ち上がって咲きます。
糸のように繊細に見えますが、実はこの花弁はストロー状(管弁)になっており、見た目以上の物理的強度を持っています。この管状構造こそが、長さ10センチ以上になっても折れることなく、空へ向かって直立できる理由です。 そして、先端だけがふわりと解(ほど)けてカールする。その姿は、緊張感(直立)と緩和(解れ)が同居する、極めて洗練された和の美学を体現しています。
「王朝」の空気を吸って咲く
多くの古典菊が江戸の庶民文化の中で改良されたのに対し、嵯峨菊は嵯峨天皇の御愛・大覚寺という「閉ざされた聖域」で、門外不出として守られてきた特殊な出自を持ちます。
そのため、品種名には「御所錦」「御所白」といった、宮中の雅(みやび)を冠するものが多く残されています。 派手な変化や奇形を競うのではなく、数百年もの間、変わらない「気品」だけを遺伝子に残し続けたタイムカプセル。私たちがこの花を見る時、それは単なる園芸品種を見ているのではなく、平安時代の貴族たちが見ていた景色そのものを、現代の網膜に投影していることになるのです。
「箒(ほうき)」が掃き清めるもの
その独特の花姿は、古くから「箒(ほうき)」に例えられてきました。「ちりとり菊」などの俗称もありますが、ここで言う箒とは、掃除用具のことではありません。
神事における「祓(はら)い」の道具としての箒です。細い花弁がサワサワと揺れる様は、あたかも空間に漂う邪気や塵(ちり)を掃き清めているかのように見えます。 秋の終わり、冷え込みが厳しくなる時期に満開を迎える嵯峨菊。その凛とした立ち姿は、来るべき冬、そして新しい年に向けて、私たちの心の中に溜まった澱(おり)を静かに払い落としてくれる装置なのかもしれません。
霧が育てる「色」の深み
嵯峨菊の発祥地である京都・嵯峨野は、霧が多く発生し、湿潤な盆地気候です。実は、この環境こそが、嵯峨菊のあの深みのある色艶(いろつや)を作る隠し味となっています。
乾燥した関東の冬では、花弁がカサカサになりやすく、あのしっとりとした質感が出にくいことがあります。プロフェッショナルが育てる場合、朝夕に霧吹きで湿度を補うなどして、擬似的に「嵯峨野の空気」を作ることがあります。美しい花を咲かせるには、その故郷の風土ごと再現する想像力が必要です。
キク科
- キク科キク属 菊(キク)
- キク科ヤブタビラコ属 小鬼田平子(コオニタビラコ)
- キク科ガーベラ属 ガーベラ
- キク科コスモス属 秋桜(コスモス)
- キク科ヒヨドリバナ属 藤袴(ふじばかま)
- キク科ムカシヨモギ属 姫女菀(ひめじょおん)
- キク科ハハコグサ属 母子草(ハハコグサ)御形(おぎょう)
- キク科アザミ属 野薊(のあざみ)
- キク科オケラ属 朮(オケラ)白朮(ビャクジュツ)
- キク科モクシュンギク属 マーガレット
- キク科シカギク属(カミツレ属、マトリカリア属) ジャーマンカモミール(カモマイル)
- キク科ローダンセ属 花簪(はなかんざし)
- キク科ルドベキア属(オオハンゴンソウ属) ルドベキア・ヒルタ 粗毛反魂草(アラゲハンゴンソウ)
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