多羅葉(タラヨウ)葉書の木

多羅葉(タラヨウ)葉書の木

多羅葉(タラヨウ)は、モチノキ科モチノキ属の常緑高木であり、葉書の木と呼ばれています。

多羅葉(タラヨウ)

多羅葉(タラヨウ)

20cmほどある椿系の肉厚な長楕円形の葉は、傷をつけるとその部分が黒くなり文字が書けるということから葉書(ハガキ)の木、郵便の木として知られています。

多羅葉(タラヨウ)葉書の木

多羅葉(タラヨウ)葉書の木

文字が書ける多羅葉の葉

多羅葉(タラヨウ)葉

多羅葉(タラヨウ)葉

表面に傷をつけるとその部分が黒くなり文字が書けるということから葉書の木、郵便の木として知られる多羅葉(タラヨウ)の葉。葉の大きさもそこそこあるため、「手習いの木」として文字を書く練習に使われていたようです。

戦国時代に武士がこの多羅葉(タラヨウ)の葉を利用して通信文のやり取りをしたという記録からハガキ(葉書)の語源という説もありますが、語源に関しては諸説あるようなので確定的ではないようです。

なお、葉の縁は鋸系の細かいギザギザがあります。

多羅葉(タラヨウ)の名

多羅葉(タラヨウ)2

多羅葉(タラヨウ)2

多羅葉(タラヨウ)の名は、インドで経文を書くのに利用された多羅樹(タラジュ)にあやかって、ということのようですが、多羅樹はヤシ科の常緑高木のためモチノキ科の多羅葉とは別種になります。

多羅葉の実

多羅葉(タラヨウ)実

多羅葉(タラヨウ)実

多羅葉(タラヨウ)の実です。黄色から赤のオレンジ系の実がついています。花期は春から初夏で、小さな淡い黄緑色の花がつくようですが、この時は実が成っていました。

多羅葉(タラヨウ)実2

多羅葉(タラヨウ)実2

実の形状としては南天や千両、万両のようです。

多羅葉の幹

多羅葉(タラヨウ)幹

多羅葉(タラヨウ)幹

多羅葉(タラヨウ)の幹です。

学名:Ilex latifolia

インドの聖典「パトラ」を演じた日本の木

タラヨウ(多羅葉)という名前の響きには、遠くインドの風が含まれています。本来、仏教の経文は「多羅樹(タラジュ)」と呼ばれるヤシ科の植物(オウギヤシ)の葉に書かれていました。これを「貝葉経(ばいようきょう)」あるいはサンスクリット語で「パトラ」と呼びます。

しかし、熱帯のヤシは日本では育ちません。そこで、弘法大師(空海)をはじめとする昔の僧侶たちは、日本の森にある植物の中から、鉄筆で傷をつけるだけで文字が書け、しかもその文字が消えないこのモチノキ科の樹木を見つけ出し、聖なる「多羅樹」の代用品として採用しました。つまり、タラヨウは日本仏教界が演じさせた「身代わりの聖木」なのです。葉の裏に経文を刻むとき、彼らはそこに天竺(てんじく)への憧れを重ねていたのかもしれません。

インク不要の「酸化」という魔法

タラヨウの葉の裏を尖ったものでなぞると、数秒後にその線が黒く浮き上がってきます。これは魔法ではなく、植物が持つ防御反応を利用した化学実験です。

葉の細胞が傷つけられると、中に含まれるタンニンなどのフェノール性物質が空気に触れ、酸化酵素の働きによってメラニン様の黒色色素へと変化します。特筆すべきは、この文字の保存性です。インクや墨で書いた文字はいずれ褪色しますが、タラヨウの葉に刻まれた「傷跡としての文字」は、葉が乾燥して茶色くなっても、くっきりと読み取ることができます。実際に、戦国時代の武将がタラヨウの葉に書いた手紙が現存しているほどです。それは、植物の体に直接刻み込む、半永久的なタイムカプセルなのです。

炎を食い止める「緑の防火壁」

古い寺社仏閣に行くと、本堂の近くに巨大なタラヨウが植えられているのをよく見かけます。これは単に手紙を書くためだけではありません。彼らは、火災から建物を守るための「生きた防火壁」として配置されています。

タラヨウの葉は非常に肉厚で、水分を豊富に含んでいます。火の粉が飛んできても容易には燃え上がらず、むしろその水分で周囲の温度上昇を防ぐ効果があります。文字を伝えるメディアとしての知性が注目されがちですが、その本質は、熱と炎に耐えうる強靭な肉体を持った、頼れるガードマンなのです。

「雌」と「雄」のすれ違い

郵便局のシンボルツリーとして植えられることが多いタラヨウですが、その多くが秋になっても赤い実をつけないことに気づくかもしれません。それは、タラヨウが「雌雄異株(しゆういしゅ)」であることに起因します。

美しい赤い実をつけるのは雌株だけですが、受粉するためには近くに雄株が必要です。しかし、記念樹として植えられる際は単独であることが多く、パートナー不在のまま孤独に枝を伸ばしているケースが少なくありません。もし、あなたの街のタラヨウがたわわに赤い実をつけていたなら、それは近くにひっそりと花粉を飛ばしてくれる雄株が存在しているという、幸福な偶然の証拠です。

鋸(のこぎり)が守る手紙

優雅な「ハガキの木」というイメージに反して、タラヨウの葉の縁には、鋭い鋸歯(きょし)と呼ばれるトゲがあります。特に若い木の葉ほど、このトゲは鋭く、触れるものを傷つけます。

大切なメッセージを載せる葉だからこそ、簡単には動物や虫に食べられないよう、武装する必要があったのでしょう。木が成長し、背が高くなって天敵が届かない高さになると、不思議なことに葉のトゲは丸くなり、穏やかな形へと変化していきます。若き日の防衛本能と、成熟した後の寛容さ。その葉の形の変化に、樹木の一生(ライフ・ヒストリー)を読むことができます。

Category:植物

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