フジバカマ

藤袴(ふじばかま)

藤袴(ふじばかま)は、キク科ヒヨドリバナ属の多年草。秋の七草の中で唯一の外来植物であり、中国からの帰化植物のようですが、いまや絶滅危惧II類に分類されるほど数が減ってきているようです。淡い紫紅色の小さな花がつきます。弁の形が筒状で袴のようなので、フジバカマと呼ばれるようです。かつては蘭や蘭草、「らに」と呼ばれたこともあるようです。

フジバカマの花

フジバカマの草丈は1~1.5mほど。花期は8~10月。地下茎は長く、這いまわり茎は直立。葉は、通常三裂して、短柄で対生。花は散房状に淡い紫紅色の小さな花をつけます。

フジバカマ

頭花は淡い紫の管状花が5個で蕾のときは紫よりの薄ピンクで開花すると白っぽくなります。種子以外にも地下茎による無性繁殖をするようです。

藤袴(ふじばかま)の香りと呼称

フジバカマは、生草の時は無香ですが、乾燥し生乾きになった時には桜餅の葉のようなクマリンの芳香を放ちます。

この香りの良さと強さから、蘭とよばれたようで、「蘭」は香りが強いことの代名詞のようです。藤袴は、帰化植物ですが、原産の中国では、蘭草、香草と書かれたりするようです。その他、日本では「あららぎ」(日本書紀など)、香水蘭、秋蘭などの表記もあるようです。

藤袴(ふじばかま)も秋の七草です。

「死」して初めて放たれる香り

フジバカマの最大の特徴である、あの桜餅のような甘い香り。しかし、生きている新鮮な葉を鼻に近づけても、ほとんど香りがしないことに気づくはずです。

この香りの正体は「クマリン」という芳香成分ですが、植物が生きて水分を保っている間は「配糖体」という形で糖と結合し、香りを封じ込められています。葉が枯れ、乾燥し、あるいは傷つけられて細胞が死に瀕した時、初めて酵素が働き、糖が外れて揮発性のクマリンへと変化します。

つまり、あの芳香は植物の「死の匂い」であり、命が尽きる瞬間に放たれる最期のメッセージです。

平安貴族たちが衣服に焚き染めたり、匂い袋(防虫香)にしたりして愛したのは、この「滅びゆくものの美学」を香りで纏(まと)う行為だったのかもしれません。

旅する蝶との「性的な」契約

秋になると、フジバカマの花には「アサギマダラ」という美しい蝶が乱舞します。海を越えて数千キロを旅するこの蝶が、なぜこれほどまでにフジバカマに執着するのか。それは単なる食欲ではありません。

集まってくるのは、主に「オス」です。フジバカマに含まれる「ピロリジジンアルカロイド(PA)」という毒成分は、アサギマダラのオスにとって、メスを誘うための性フェロモンを作る原料となる必須物質です。彼らはこの花から成分を摂取しなければ、子孫を残すことができません。毒を自らの魅力(フェロモン)に変えるための、生存と生殖をかけた必死の集会。優雅に見える光景の裏には、男たちの切実なナンパ戦略が隠されています。

『源氏物語』が描いた卑屈さと高貴さ

紫式部は『源氏物語』の第三十帖に「藤袴」の名を冠しました。そこで描かれるのは、夕霧(光源氏の息子)が、従姉妹である玉鬘(たまかずら)に求愛するシーンです。

夕霧は、フジバカマの花を差し出し、「同じ野の露に濡れて咲く藤袴なのだから、よそよそしくしないで(私もあなたも同じ親族なのだから)」と詠みます。ここでフジバカマは、高貴な紫の花でありながら、どこか野暮ったく、少し湿っぽい、強引な親近感の象徴として使われています。美しさの中に、少しの卑屈さと、断りきれない血縁の情を含ませる。この花の持つ、洗練されきらない「野趣」を巧みに利用した心理描写です。

市場を席巻する「交雑種」の影

残念な事実をお伝えしなければなりません。現在、園芸店やホームセンターで「フジバカマ」として売られているものの99%は、実は純粋な日本のフジバカマではありません。

その正体は、中国原産の「サワフジバカマ」や、それとの交雑種です。本物の日本在来のフジバカマ(Eupatorium fortunei)は、環境省のレッドリストで「準絶滅危惧」に指定されている希少植物です。 見分けるポイントは「色」と「香り」です。外来種は色が濃く鮮やかなピンクで、香りが薄い傾向があります。一方、本物は白に近い淡い紫で、乾燥させた時の香りが格段に強く、品があります。もし本物を手に入れたなら、それは宝石を預かるような責任を伴う幸運です。決して野山に植えて交雑させてはいけません。

地下で織られる「袴」のネットワーク

「藤袴」という名は、花の色が藤色で、花弁の形が袴(はかま)に似ているからと言われますが、もう一つの解釈があります。それは地下茎の強靭さです。

一度根付くと、地下茎(ちかけい)を網目のように張り巡らせ、袴の紐を結ぶように土を強固に掴んで離しません。この繁殖力は凄まじく、地上部が枯れても地下では生きており、春になると予期せぬ場所から芽を出します。可憐な風情とは裏腹に、地下ではしたたかな生存競争を繰り広げている。この二面性こそが、千年以上も日本人に愛され、生き抜いてきた理由でしょう。

キク科

Category:植物

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語のみ