葦(ヨシ、アシ)は、イネ科ヨシ属の多年草です。簾(すだれ)のひとつ簾葦簀(よしず)に使われている植物です。川辺や湖沼の水際、湿地等々水辺によく生えています。表記としては葦の他、芦、蘆、葭などが使われることがありますが、一般的には葦です。芦毛の芦、蘆山寺の蘆(一般表記は廬山寺)、葭屋町の葭ですね。

葦(ヨシ、アシ)1
イネ科丸出しの植物ですが、稲などよりも草丈が相当高い感じです。人の身長を越します。この葦は地下茎が伸びる形で群生します。節からひげ根を出して繁殖します。

葦(ヨシ、アシ)2
「人間は考える葦である」というパスカルの「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」という言葉では「アシ」と読まれますが、現代では一般的にヨシと呼ばれたりします。

葦(ヨシ、アシ)
単にアシという言葉が「悪し」っぽいからという理由のようですが、良し悪しを逆転させようということなのか「ヨシ」と呼ばれるようになったようです。
葦(ヨシ、アシ)の葉

葦(ヨシ、アシ)葉
すぐに指を切ってしまいそうな葦(ヨシ、アシ)の葉。

葦(ヨシ、アシ)葉1
稲などに比べて草丈が長いということに比例してサイズが大きい葦(ヨシ、アシ)の葉。

葦(ヨシ、アシ)葉2
学名: Phragmites australis
「考える葦」が示す尊厳の正体
フランスの哲学者パスカル氏は、「人間はひとくきの葦にすぎない。自然の中で最も弱いものである。だが、それは考える葦である」と言いました。
なぜ、彼は人間を葦に例えたのでしょうか。それは、葦が風が吹けば簡単に折れ曲がり、踏めば潰れてしまうほど物理的に脆弱な存在だからです。しかし、その弱さを自覚し、広大な宇宙や死について「思考」することができる点において、人間は盲目的に力を振るう宇宙よりも偉大であると説きました。水辺で風に揺れる頼りない姿。その姿こそが、物理的な強さを超えた、精神的な尊厳の象徴なのです。
水を磨く「バイオフィルター」の科学
ヨシ原は「自然の腎臓」とも呼ばれ、驚異的な水質浄化能力を持っています。しかし、ヨシ自身が汚れを吸い込んでいるだけではありません。真の功労者は、ヨシの根に住み着いた「微生物」たちです。
ヨシの茎は中空(ストロー状)になっており、地上から取り込んだ酸素を、泥の中にある根の先端まで送り届けています。これにより、酸素のないドブのような泥の中でも、根の周りだけは酸素が豊富な状態(酸化的根圏)が保たれます。ここに好気性バクテリアが大量に繁殖し、水中の汚れ(有機物やアンモニア)を強力に分解してくれるのです。ヨシは場所と酸素を提供し、バクテリアは水を浄化する。この見事な共生システムが、湿地の水を透明に保っています。
地下で繋がる「ひとつの生命」
見渡す限りのヨシ原。無数の茎が生い茂っていますが、実はその多くが、地下茎で繋がった「たった一つの個体(クローン)」である可能性があります。
ヨシは種でも増えますが、基本的には地下茎を這わせて領土を拡大します。地上部が刈り取られたり、火事で焼かれたりしても、地下のネットワークが無事なら何度でも再生します。私たちが「たくさんのヨシ」だと思って見ている風景は、実は巨大な「ひとつの生命体」が手足を伸ばしている姿かもしれません。個を捨てて全体として生き残る。その戦略は、個人の自由よりも組織の存続を優先する古代の社会構造を思わせます。
音楽を生んだ「震える舌」
ヨシは、人類の音楽史において最も重要な植物の一つです。雅楽の篳篥(ひちりき)、オーボエ、クラリネット、サックス。これらの管楽器の発音体である「リード(舌)」は、伝統的に葦(ケーン)から作られています。
乾燥した葦の薄片が、息を吹き込まれて振動する時、人の声にも似た艶のある音が生まれます。また、ギリシャ神話の牧神パンが吹く「パンフルート(葦笛)」も、長さの違う葦を束ねたものです。風に吹かれてサラサラと鳴る葦原の音は、太古の人々にとって、自然が奏でる最初の音楽だったのでしょう。私たちが楽器を吹くとき、その唇には数千年前と同じ植物の振動が触れています。
「豊葦原」という国の原風景
古事記や日本書紀において、日本という国は「豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)」と称されています。「豊かな葦原が広がり、瑞々しい稲穂が実る国」という意味です。
稲作が伝わる以前、日本の低湿地はすべてヨシに覆われていたことでしょう。神話の時代の人々にとって、生命力あふれるヨシ原こそが、国土の豊かさそのものでした。現代では開発によって埋め立てられがちですが、ヨシ原を守ることは、単なる自然保護を超えて、この国の原風景とアイデンティティを守ることに他なりません。
オオヨシキリとの騒がしい契約
初夏、ヨシ原から「ギョギョシ、ギョギョシ」という騒がしい鳴き声が聞こえてきます。オオヨシキリです。
彼らは、垂直に伸びたヨシの茎を数本まとめて、巧みに巣を架けます。風で激しく揺れても、しなやかなヨシの茎は折れることなく、ゆりかごのように衝撃を逃がしてくれます。その代わり、オオヨシキリはヨシを食べる害虫を捕食します。騒がしい住人ですが、ヨシにとっては自身の身体を守ってくれる頼もしい用心棒なのです。
イネ科
- イネ科ススキ属 芒(すすき)尾花(おばな)
- イネ科チガヤ属 白茅(ちがや)
- イネ科キビ亜科エノコログサ属 エノコログサ(ねこじゃらし)
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