「男と男の一騎打ち」というような機会はさほど多くありませんが、やはり節目節目でそのような感じのことがちらほらありました。
大口の取引や、起業前に職場の上司と話した時等々もありますが、それらはさほど大したことはありません。
人生で一番の「一騎打ち」はやはり、妻のお義父さんに結婚の挨拶をしに行った時です。
ものの数分ですが、妻に対する気合いと娘に対する気合いがぶつかり合う瞬間ですね。
その時の誇り以上の誇りの感覚はありませんし、また、その時以上に「女が女の顔になる瞬間」を見たことはありません。
夫と父、男と男の本気の愛と気合いに挟まれて、圧倒されているような感じでした。
それはそれで「懐かしいなぁ」と河童の三平のタヌキのようになってしまいますが、本題はそこではありません。
少し昔になりますが、娘や妻、両親、義両親みんなで植物園に行ったときのことです。
業種的にコロナ不況が直撃するような業種だった義父が、
「bossuくん。なんとかならんやろか」と弱気になっていました。
おい、ふざけるんじゃないよ。
あなたとの一騎打ちは僕にとって一番の誇りなんです。
そのあなたが弱気になってしまうと、僕の誇りが台無しになってしまう。
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確かにもがいたところで何ともならない状況でした。
「リースバックってあるやろ?あれくらいしかないかな。不動産も置いておきたかったけど、すまんな」
「ご自身で作られた資産です。ご自由に扱ってください」
僕は非常に悔しいような感情に苛まれました。
周りからは
「何とかできないもんかねぇ」ということで、手助けを要請されましたが、
ご自身で持ち直してもらわないと、誇りの面で僕が困ります。
「勲章までもらってる職人が弱気になっちゃだめですよ。職人としての腕も誇りも消えたわけじゃありません。バブル崩壊後の不況もリーマンショックもすべて乗り越えています。だからもう少しの間、耐えていてください」
僕が精一杯絞り出したのはそんな言葉。
もし、何かしらで手をかけてしまったら、あの「一騎打ち」の思い出はすべて台無しになります。
だからこそ無慈悲にも見えるかもしれませんが、一切手を出さないようにしました。
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その後、ある程度持ち直したようで何よりでした。