悪人と音楽

音楽は彼らにとって、自分の異常な状態を傍観し、しかも一種の疎遠さと安心感を抱いて初めてその姿にあずかる、ただひとつの手段である、愛する者はだれでも音楽を聴いて思う。「これは私のことを語っている。私の代わりに語っている。音楽は一切を知っている!」 曙光 216 最終部抜粋

原則的にカラオケには行きません。よほどのことがない限り行きません。昔、よく音楽をやっていない人からおすすめされた曲というものは、たいして良いものがありませんでした。

どういう意味で良くないかというと、それが洗練されているものであればいいのですが、単純な方程式から簡単に編み出したような楽曲に、深夜のドンキホーテにいる十代の恋愛観のような歌詞を組み合わせたようなものだからです。

「わかるよその気持ち」的な曲です。しかしながら、僕は昔からあまり歌詞は重視していません。

音楽をやっている人からおすすめされた曲は、ジャズだったり、ブルースだったり、という具合に、歌詞が無かったり、歌詞がいまいちわからないようなものです。つまりは聞いているポイントがぜんぜん違うといった感覚でした。

今では、音楽自体をあまり聴きません。少し前まではiPhoneにも結構入れていましたが、今ではイヤホンマイクが断線してから、iPhoneで聴くこともほとんどなくなりました。

最近の曲が良くない、といった類ではなく、静寂を好むようになったからでしょう。

下手にカラオケに行くと、一緒に行った人が選んだ曲によってそのお人柄が見えてしまいます。懐メロならそれはそれでいいですが、「わかるよその気持ち」的な曲を歌われた時には、「わかっても、同調する気はないな。犀の角のようにただ独り歩もうかな」と、冷めた目で見てしまいます。

特にネタではなくウェーイ系のラップ調を歌われてしまえば「絶対に友だちにはならないだろう」と思ってしまいます。そんな具合で、何も楽しくないので、よほどのことがない限り、誘われてもお断りしています。

そこで思い出したのですが、もっと酷いケースがありました。

V6系ザ・ブルーハーツ

高校生の時に当然文化祭があるわけですが、僕は学校で電気の通ったベースなどを演奏するのは何故か嫌だったので、学校でその手の演奏はしたことがありません。部活も軽音楽部ではなく吹奏楽部兼バイト部です。この時からライブはすべて外というか、ライブハウスでやっていました。

そこで、V6の岡田氏系のキレイ顔の同級生が文化祭で何か演奏するということを耳にしました。「観ない方がいい」と自我が判断したのでしょうか、僕は観に行きませんでした。

そこで他の同級生にどんな具合だったのか聞いてみると、「おい、ブルーハーツやってたぞ」という衝撃の事実を報告されました。それだけでサブイボが出ました。

てっきりV6の「WAになっておどろう」でも歌ってくれたのかと思えば、ザ・ブルーハーツだと言うのです。ショックだったと思います。僕だけではありません。全校生徒すべてが衝撃を受けたことだと思います。V6顔が甲本ヒロト氏に扮するのですから。

そこで「歌唱力はどうだったのか」、ということを聞きました。「知らない方がいい」という回答が同級生から寄せられました。

しかしながら、ボーカルになりたいので「喉のために加湿器を買ったんだ」という旨で、同級生の女子にアピールしていたということを以前に聞いていました。それを聞いた時には、てっきりアイドル路線かと思っていました。

「加湿器を買ったんだ」と女子に猛アピールする人がアイドルではなくパンクだと言うのです。V6ではなくブルーハーツだというのです。みなさんもショックだと思います。僕も大変ショックを受けました。

てっきり歌って踊る六人組くらいの中で踊る専門ではなく、歌う専門の方を目指していたのかと思えば、まさかパンクロッカーになりたかった、という衝撃です。

すでに美しい顔を持ちながら「ドブネズミみたいに美しくなりたい」と訴えかけていたそうです。

非常にショックです。それほどの美形がまだ「美しくなりたい」と叫ぶのですから、もう勝ち目がありません。

中学1年生の時、親友のお兄さんが急遽仕事で行けなくなった、ということでザ・ハイロウズのライブのチケットをもらって、親友と一緒に行きました。それが初めて生で感じたロックです。その時の甲本ヒロト氏は毎度のことのようですが股間を露出されていました。V6系の美形の彼がそんなことをしたら、社会問題です。

そんなことを言いつつも、僕はザ・ブルーハーツをバンドとしてコピーしたことはありません(一応数曲は弾けますが)。いくらコピーしても、その人達のようにはなれない、コピーしてはいけないような気がしたからです。カラオケでも絶対に歌いません。このバンドは聴く専門です。

曙光 216 悪人と音楽

Category:曙光(ニーチェ) / 第四書

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