勿忘草(わすれなぐさ)

勿忘草(わすれなぐさ)

勿忘草(わすれなぐさ)は、 ムラサキ科ワスレナグサ属(Myosotis )の植物たちの総称です。忘れな草とも表記されることがあります。

勿忘草(わすれなぐさ)2

勿忘草(わすれなぐさ)2

ヨーロッパ原産であり原産国では多年草ですが、日本国内は環境的に一年しか生きられないため一年草扱いされているようです。

勿忘草の花淡い青のごくごく小さな花をつけます(品種によって白やピンクよりの色の花もあるようです)。

勿忘草(わすれなぐさ)

勿忘草(わすれなぐさ)

生命力、繁殖力ともに凄まじいのですが、見落としてしまいそうなほど小さな存在です。

英名「forget me not」の方が花にまつわるお話や曲名を含めて有名かもしれません。

勿忘草(わすれなぐさ)3

勿忘草(わすれなぐさ)3

我が家で育っていた勿忘草のこぼれ種が、時を経て「道端での再会」という粋な計らいをしてくれました。

forget me not

学名:Myosotis

伝説の裏にある「ネズミの耳」

「私を忘れないで(Forget-me-not)」というロマンチック極まりない名前を持つこの花ですが、学名の Myosotis(ミオソティス)に目を向けると、少し違った景色が見えてきます。

ギリシャ語で「Myos(ネズミ)」+「otis(耳)」、つまり「ネズミの耳」という意味です。短く柔らかい毛に覆われた葉の形が、ネズミの耳に似ていることに由来します。中世の悲恋伝説の陰で、分類学者たちは非常に即物的で、どこか愛嬌のある名前を付けていました。美しい物語で飾るか、ありのままの形を愛でるか。呼び名一つにも、人間が植物に向ける視線の二面性が表れています。

ほどける「サソリ」の幾何学

ワスレナグサの蕾(つぼみ)をよく観察すると、独特のカーブを描いて丸まっていることに気づくでしょう。これを植物学用語で「サソリ型花序(かじょ)」と呼びます。

その名の通り、サソリの尻尾のようにくるりと巻いた茎が、基部から先端に向かって順に花を咲かせながら、ゆっくりとほどけて真っ直ぐになっていきます。限られたスペースの中に、可能な限り多くの蕾を収納し、効率よく順番に咲かせるための優れたパッキング技術です。可憐な花の配列の中に、数学的な螺旋(らせん)の美しさが隠されています。

青春のピンク、成熟の青

ワスレナグサの花を見て、「ピンク色の花が混じっている」と思ったことはありませんか? 実はこれ、品種の違いではなく、一つの花の時間経過による変化なのです。

咲き始めの花はピンク色をしていますが、完全に開くと鮮やかな青色(空色)へと変化します。これは花弁に含まれるアントシアニンという色素が、細胞内のpH(酸性度)の変化に反応しているためです。若い時は酸性で赤く、成熟するとアルカリ性に傾き青くなる。まるで、若き日の情熱(赤)が、時を経て冷静な知性(青)へと昇華されていく過程を見ているかのようです。

本物を見分ける「毛」の角度

園芸店で「ワスレナグサ」として売られているものの多くは、実は「エゾムラサキ」や「ノハラワスレナグサ」などの近縁種、あるいはその改良品種です。真のワスレナグサ(Myosotis scorpioides / シンワスレナグサ)を見分けるには、ルーペを持ってガク(花の下の緑の部分)を見る必要があります。

もしガクに生えている毛が、寝ていて張り付いている(伏毛)なら、それは「シンワスレナグサ」です。逆に、毛が立って開いている(開出毛)なら、それは「エゾムラサキ」などの仲間です。肉眼では見えないミクロの世界に、種のアイデンティティを決定づける「決定的な証拠」が隠されています。プロフェッショナルは、花の色ではなく、この産毛(うぶげ)の角度で彼らの素性を語ります。

名前の通り「離れない」物理学

「私を忘れないで」という言葉は、心情的な願いだけではありません。花が終わった後にできる種(果実)には、物理的にその願いを叶える機能が備わっています。

ガクには鉤(かぎ)状の毛があり、これが動物の毛や人間の衣服に強力にくっつきます。いわゆる「ひっつき虫」としての性質です。母株から離れ、運び屋にくっついて新天地へと旅をする。一度触れたら離れないその粘着質な生存戦略こそが、この花が世界中に広まることができた本当の理由かもしれません。可憐な花が散った後、彼らは逞(たくま)しい旅人へと変貌するのです。

水辺を愛する「ドブナズナ」

実は日本にも、ワスレナグサの仲間が自生しています。「エゾムラサキ」などがそうですが、かつて付けられた和名の中に「ドブナズナ」という、あまりにも不憫な名前のものがあります。

ワスレナグサの仲間が、湿り気のある場所や水辺、時にはドブのような場所でも力強く咲くことを表しています。しかし、どんなに泥臭い場所に咲こうとも、その青色の純粋さが損なわれることはありません。環境を選ばず、置かれた場所で澄んだ空色を映し出す。その強さこそが、この植物の真骨頂です。水を好むため、ガーデニングにおいても乾燥は禁物。「湿地性植物」として扱うくらいの水やりが、美しく咲かせる秘訣です。

Category:植物

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