へりくだりの欺瞞

「自分を欺くな!」

曙光のこの箇所(219)はこの言葉で終わります。

今回は、僕が自分を欺き、へりくだった時に、ふと、「自分を欺いてへりくだるのをやめよう」ということを気づかせてくれた同僚のことについてでも書いていきましょう。

先日、その同僚との思い出の場所の前を通ると、そこは内装がすっかり片付けられていて、もぬけの殻になっていました。予想通り、という面と、やはりその同僚とのあの思い出をふと思い返したので記しておきます。

同僚との同行営業

その同僚は「営業」としては天才肌で、上司にもほぼタメ口をきくようなタイプのマイペースな人でした。そんな彼と一緒に営業に行った時の話です。

営業という仕事を経験された方は、身に覚えのあるような話かもしれませんが、たいてい一番初め、つまり初対面の時は、営業と関係無いような、遠回しの大義名分で訪問したりします。

いきなり「どうですか?買ってください」と言っても、相手はバリアを張っているのが普通ですから。

同僚との同行営業の際、一応遠回しの理由をつけて初回訪問したのですが、その時にすぐにその気配を察知したのか、その営業先は怒り出しました。

へりくだる僕と怯むことのない同僚

すぐさま僕は、元の大義名分にだけ重点を置いて話を元に戻したのですが、相手はこちらの疚しさを逆手に取り、横柄になっていきました。

僕はへりくだるしかありませんでした。

僕は、そこから何とかして話を少しずつ逸らしてその場を去ろうとしました。下手に強気に出て、また体育会系上司にクレームでも入れられたらめんどくさいからです。

すると、同僚は怯むこと無く、営業につながるような話をしだしました。相手は鼻で笑いながら「ふんふん」と一応聞いています。

その勇ましさを今でもよく覚えています。絶対に客にならないような相手にもかかわらず、営業を始めました。

その瞬間に相手は「え?何?それはいま営業したはんの?」

と、きました。

僕は怯んでしまいました。早くその場を去りたい一心でした。

早急にその場を去りたいという一心で、思わず「いえ、そういうことでは…」と言いかけた時です。

「ええ!それが仕事ですから!」

と、同僚は喝を入れました。その様子は非常にカッコよく感じたのをよく覚えています。その時にこの同僚には絶対に勝てないと確信してしまいました。

元の目的から言えばどちらが正しいとも言えません。絶対に客にならないような相手にムキになっても仕方ありませんから。しかしながら、自分が知らぬ間に「諦めてへりくだるしかない大人」になりかけていることに気づきました。

絶対に客にならないような相手にも、へりくだっている、ただ、クレームを避けるために、嫌な相手に頭を下げている自分が心底嫌になりました。

その時の同僚の横顔は未だに忘れることができません。それから後、僕は起業して、彼と同僚ではなくなりましたが、それからもその時の記憶が鮮明に僕の背中を何度も押し続けました。

それから少し悶着があって、その訪問先を出るときに、「二度と来るな!」と罵声が飛んできました。

彼は「頼まれても来るか!」と言いました。

僕はただそれを流しました。

彼は少し肩が揺れていました。寒空の下、近くで缶コーヒーを片手に、「反省会もどき」みたいなことをしながらも、自分の情けなさと、彼の勇ましさへの衝撃をどう悟られないようにすべきか、そんな場でもまた何かを隠そうと、自分や相手を欺こうしていました。

その事に気づいた時に、照れくさいながら、彼に礼を言ったのを覚えています。

そんな経験ができるのだから、同僚というものがいる「勤め人」もなかなかおもしろいものです。

今ではあの時の彼以上に強気かもしれません。

へりくだりの欺瞞 曙光 219

Category:曙光(ニーチェ) / 第四書

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